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 「敵基地攻撃能力(反撃能力)」の保有によって、「専守防衛」を変質させる恐れとともに、わが国の防衛政策の大転換がいわれるなか、防衛力強化の財源論が連日話題となっている。岸田文雄首相は、既に防衛費は2027年度には今より4兆円増え、同年度以降1兆円強を増税で賄う方針が示している。

 しかし、肝心の防衛政策の大転換についても、防衛費増額についても、それ自体への国民のコンセンサスや、その中身の具体的な妥当性について国民が理解する間もなく、一足飛びに予算の「捻出」に腐心する国会議員たちの姿を私たちは、今、なぜ、見ることになっているのだろうか。防衛力強化=軍拡ありきの、もはやそれを大前提とした、この国の政治をわれわれは見ているのである。

 わが国が直面している少子化対策、巨大地震への対策など、当然財源が議論されていいテーマの優先順位の問題に言及しているメディアもある。しかし、それもさることながら、もっと根本的な問題をいえば、唐突に登場した国家政策の大転換の話に、なぜ、国民はこんなにも置き去りにされているのか、ということである。

 このような防衛政策の大転換も増税も、私たちは選挙で問われていない。臨時国会の会期末を迎えた12月10日に行われた記者会見で、7月の参院選で公約に入れなかった理由を記者に問われた岸田首相は、次のように答えたと伝えられている。

 「内容と予算と財源について一体に考えていく、議論していく、こういった方針を年の初め、通常国会からずっと申し上げてきた」

 「参院選挙の時期を乗り越えて、こういった議論が詰まってきて、今、国民の皆様にご協力をお願いしなければいけない、こういったことを申し上げている」

 「選挙の時期にかかわらず、政治はずっと動いています。その動きのなかで、今、こういった議論が詰まっている」

 これを前記記者が問いかけた「理由」についての回答のつもりなのだとしたら、岸田首相は、このテーマについて国民に改めて具体的に投げかけなくてもいいと考えているということ以外、実質的に何も言っていないのと同じであるといわなければならない。。「議論が詰まってきた」という表現を使っているが、国民がおよそそう考えているとは思えないし、「政治が動いている」ということを公約に掲げない理由にできるのならば、もはやなにをかいわんやである。

 そもそも結論をここまで急ぐことについて、多くの国民は納得しているだろうか。時間をかけて、防衛力強化の中身と、財源以前の防衛費増額の妥当性をじっくり検証すべきという見方があってもおかしくない。「議論が詰まってきた」というところまで、国民が実感できる時間は必要ではないか。

 注目されている「敵基地攻撃能力」にしても、こちらの反撃後のことは明確に想定され、また、国民に提示されているとは思えない。仮に敵基地を攻撃した場合、相手がそれで沈黙するという楽観的な想定にはとても立てない。むしろ、これは一斉に相手から反撃されることも、全面戦争への導火線に火をつれるものになることも、当然考えていなければおかしい。戦争という事態を前提にすれば、楽観的な想定など正気の沙汰とは思えない。

 さらにいえば、米国との関係も取り沙汰されている。日本近海で米軍戦艦が攻撃を受けた場合、集団的自衛権を行使し得る「存立危機事態」に当たり、米軍の要請で、日本が敵基地攻撃能力を活用した反撃を迫られる可能性が生まれるということなのだ。いよいよ日本がより現実的に米国の戦争に巻き込まれると言い換えることもできる。国民がもっと理解し、議論しておかなければならないテーマがあるように思えてならない。

 ウクライナ戦争、中国の台湾侵攻、北朝鮮のミサイル。この議論の背景に、こうしたものへの、危機感が掲げられ、緊急性の根拠にするものがくっついている。しかし、逆に言うと、この危機感があればこそ、今回のように選挙で公約として提示もしない、唐突な手法が、通用するのではないか、という政権側の侮りともいえる、ヨミが透けて見える。

 「せめて解散総選挙で、国民に信を問うべき」。防衛費増額にも増税を含めた財源についても、今、ネット上にはこうした声も溢れている。しかし、岸田首相は、今のところこれを必要ない、とする立場である。彼が掲げた「聞く力」という話はどこへ行ってしまったのか、という失望を込めた声も聞かれるが、私たちは、防衛政策の大転換というテーマであればこそ、私たちは今こそ、現政権の国民に対する深い侮りの本性を、しっかりと銘記しておかなければならない。







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