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 〈「旨い、早い、安い」弁護士サービス〉


 地方で開業する弁護士も、食堂経営者と本質は変わらない。他の弁護士や隣接士業者などの競争相手と競争し勝ち残るためには、より「旨い、早い、安いサービスを提供しなければならない。

 弁護士同士の競争だけではなく、他の隣接士業者との競争においても、他より「旨い、早い、安い」サービスの提供が不可欠となる。地方弁護士は、司法書士、税理士、金融機関などのサービスより、「旨い、早い、安い」サービスを提供しているだろうか。自信をもって他の隣接士業者よりも「旨い、早い、安い」サービスの提供をしているとは言い切れない。

 地方弁護士も、より旨く、早く、安い法的サービスを提供しなければ生き残れないような時代に突入し、相当の時が経った。地方弁護士の商売の環境は、いよいよ厳しい状況となっている。

 地方弁護士が、他の弁護士や隣接士業書より、「旨い、早い、安い」サービスを提供できるかどうかは、個々の弁護士の問題であり、個々の弁護士の才能と情熱にかかっている。そのノウハウには、正道はない。個々の弁護士の才能と情熱と努力にかかっている問題である。

 より「旨い、早い、安い」弁護士サービスを提供できるかどうかは、地方で開業する個々の弁護士の能力の問題であり、在り方の問題であり、心構えの問題である。他の弁護士向かって、「こうあるべきだ」とか「こうあってはならない」などと言うつもりはない。自分には、そんな能力も資格もない。

 ただ、一言述べたいことは、他の弁護士より繁盛したり、収入の多い弁護士は、それなりの努力をしていることは間違いない。その努力と工夫なくしては、地方弁護士の商売に繁盛はない。

 カネの稼げる地方弁護士は、地方住民から、それだけ必要とされていることは間違いない。食堂が流行るかどうかは、店主が決めるのではなく、客が決めるものである。客が求める弁護士は、繁盛することになる。客に認めてもらわなければ、地方弁護士の商売だって流行らない。

 地方弁護士は、クライアントが納得するような旨い解決を、早く、安く成し遂げなければならない。中でも大事なことは、本当にクライアントのためになる解決をしてやることである。目先の損得だけではなく、その人の人生まで一緒に考えてやれるようにならなければならない。

 繁盛する食堂の経営者は、どうしたら「旨い、早い、安い」食事を提供できるようになれるだろうか、と情熱を傾け、昼夜努力を続けているはずである。地方弁護士だって、そのことは当てはまる。地方弁護士は、どのようにしたら地方住民に対し、地方住民が求める法的サービスを提供できるかを考え、その方法を見付け出し、見つけ出したら実行しなければならない。そういう地道な努力しか途はない。


 〈「必要悪」から「必要不可欠な存在」へ〉

 地方で開業する弁護士の商売が繁盛するかどうかという本題から脱線してしまったが、本題と全く関係のない話をしたいわけではない。問題は、地方で開業する個々の弁護士同士の競争、隣接士業種との競争という一面もあるが、根本的には、弁護士全体が世の中から求められている存在かどうかという点にあり、この問題に全く関係のない話をしたいつもりではない。

 地方で開業する個々の弁護士の商売が繁盛するかどうかは、個々の弁護士の努力によるところは大ではあるが、弁護士全体が世の中から必要とされているかどうかということこそ根本的な問題であり、その問題は個々の地方弁護士の心の持ち方、心掛けにも深く関わるという思いで述べた。

 地方で開業している個々の弁護士が、「旨い、早い、安い」サービスを提供しているかという問題とは別に、地方弁護士全体が、地方住民が求めているサービスを提供しているかという問題がある。

 地方弁護士は、地方住民のニーズに応えるサービスを提供しているかどうか、このままでよいのかどうか、これから先はどうしたらよいかなどについて考察しなればならない。個々の地方弁護士は、その仕事の本質は、サービスの提供であることを、もっともっと強く意識する必要がある。

 地方で開業する弁護士間で、他の弁護士より、「旨い、早い、安い」サービスを提供する方法については、各自の才能と努力と熱意に任せることにして、地方弁護士全体が地方住民から高い料金を払ってでも、地方弁護士のサービスを受けたいと求められる存在となるためにはどうしたらよいかを考えてみる。

 地方弁護士は、これまでそうするのが当然と思い込み、やって来た仕事だけをやっていれば、これから先もその商売は繁盛するかどうかを考えてみたい。

 ここを考える上での最大ポイントは、弁護士という職業は、これまでのような、それ自体は悪であるが、社会や組織の存続のためには、最低限の存在を認めざるを得ないという「必要悪という存在」から、どうしても必要なものでなくてはならないもの、つまり社会に「必要不可欠な存在」に進化しなければならないという点にある。

 ネガティブな存在から、ポジティブな存在にならなければならない。「できればなくなった方がよいという存在から、「是非なくてはならないという存在」になせなければならない。地方弁護士は「必要悪」から「必要不可欠な存在」へ変身しなければならないという思いが湧いてくる。

 地方弁護士が地方住民にとって「必要悪」という存在から、「必要不可欠」という存在になるための具体的方法は、いろいろあると思う。今、私が思いついているのは、①喧嘩犬から氏神様に、②専門馬鹿から知恵者に、③家庭医的存在へ、④盲導犬的な存在へ、という4点である。

 次回以降、この4点について、思い付くまま述べる。いずれも思い付きに過ぎず、何の根拠も裏付けもない。50年を超えて地方弁護士を体験した身として、反省の気持ちを込めて、こうありたいという願望を述べる。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)

 

 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~14巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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