司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>




 

 〈商売面にも関わる「喧嘩犬」からの脱却〉

 「弁護士は喧嘩犬だ」と馬鹿にする人がいるが、そう言われれば、その通りだったような気がしてくる。これでは地方弁護士は、「必要悪」と言われても仕方がない気がする。大病を患い、余命宣告を受け、死を覚悟した結果生まれた「人生は、今の一瞬を、まわりの人といっしょに楽しみ尽くすのみ」という「いなべんの哲学」を確立した今、相手を負かすために闘うこと自体を恥じる心境に至っている。

 相手を倒し、勝利の雄叫びを上げることは、相手も今一緒にいるまわりの人であると考えれば、許されることではない。「いなべんの哲学」に真っ向から反している行為である。武力で人を殺す戦争と、その本質は変わらない気がしている。自分の信念に反する気がしてくる。

 地方弁護士として、紛争の一方当事者の代理人となって、他方当事者と闘って、相手を倒す仕事に疑問を感じないでやってきた、かつての自分に疑問を抱く昨今である。

 この点は、自分の、個人の生き方としての問題に過ぎないとも思うが、地方で開業する弁護士全体の問題でもありそうな気がする。たとえ法廷闘争になっても、節度を守った弁護活動をしなければならない。

 地方弁護士の商売面でも、それは影響している。喧嘩犬的仕事は減少している。それに伴い、収入が減少している。このまま地方弁護士が喧嘩犬的存在に止まっていたら、仕事が減る一方である。新しい仕事を開拓しなければならない。この問題は、地方弁護士の商売面にも深く関わる問題である。

 それは硬い言葉で表現すれば、「地方弁護士の役割と在り方」とでも言うべき問題である。地方で開業する弁護士は、喧嘩犬のままでよいとは思えない。喧嘩犬のままでは、地方弁護士は世の中から、その存在を積極的に歓迎されることはない。

 地方弁護士が、社会から真に求められるような存在となるためには、新たな役割を果たさなければならない。地方弁護士は、どう在るべきかという、その役割と在り方を考えてみなければならない。それは地方弁護士の社会的使命の問題でもあるが、新たな役割を見付け出さなければ、商売面が厳しくなるという意味では、商売面にも深く関わってくる。

 地方で開業する弁護士は、喧嘩犬などと言われるような仕事を、このまま主な仕事としていのか。地方弁護士の役割と在り方を思い切り見直してみる必要がある。喧嘩犬は、「人生は、今の一瞬を、まわりの人といっしょに楽しみ尽くすのみ」という「いなべんの哲学」の立場では不要と思える。不要なだけではなく、「いなべんの哲学」には最も反する存在とさえ言えるという意味だけに止まらないで、地方弁護士の商売の繁盛という視点で捉えても、地方弁護士は喧嘩犬的存在に止まってはいられないという思いがする。


 〈紛争の決着だけでは行き詰る地方弁護士〉

 平和のためには、戦争にどう勝つかということより、どうしたら戦争をしないで済むかを考えるべきである。地方弁護士は、紛争に勝つことよりも紛争とならないようにする役割を果たしたい。

 このような考え方と地方弁護士の商売とは、一見関係がなさそうにも思えるが、地方弁護士の役割と在り方が、真に世の中が必要とするものとならなければ、地方弁護士の商売は衰退することになる。弁護士の役割と在り方を見直すことは、弁護士の商売を考える上で、おおもととなっているものと言えそうである。

 これまでの必要悪的存在に止まっていては、地方弁護士の商売は繁盛しないのみならず、世の中から不要な存在とされかねない。今、それに気付かなければ、地方弁護士の商売は、ますます危機的状態となってしまう。

 地方弁護士が、その商売を繁盛させるためには、世の中から認めてもらえるような役割を果たし、世の中から必要不可欠な存在と認めてもらうような仕事をしなければならない。具体的には、地方弁護士は喧嘩犬から氏神様に、専門馬鹿から知恵者に、そして、地方住民の日常に関する家庭医的存在となり、時に人生の迷いを案内する盲導犬的存在にならなければならない。

 今、地方住民が、地方弁護士に求めているものは、法律と裁判で、紛争の決着を付けてほしいという思いで、カネを払うものであることは分かっているつもりだ。しかし、それだけでは、この先の地方弁護士の商売は行き詰ってしまう。地方弁護士は、紛争に決着を付けるだけの仕事をしていたら、その経済的基盤は、脆弱化しかねない。

 年寄りとなって、青臭いとも思えるような理想論が湧いてきて止まらない。年寄りには経験がある。経験に基づく知恵がある。その知恵を活用すれば、理想を現実化することは、できないとは限らない。そんな夢を持って、青臭い意見を述べる。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)


 「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~14巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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