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 日本の選挙にあって、投票率の低さや若者の選挙離れが取り上げられる度に、「よりまし」という発想が提唱されて来た。つまり、政策や意見などが完全に一致する候補者でなくとも、自分の考えに最も近い人を選べばよい。だから、棄権せずに投票所へ足を運ぶべきだ、ということである。選挙が近付くと、識者やマスコミが、口を揃えてこう呼び掛けるのも常である。

 この「よりまし」論には、民主主義や選挙制度の本質をつなげても語られる。前記するような政策のが完全一致などは、選挙にあってはそもそもあり得ない。「よりまし」な民意が少しずつ反映されることで、それこそ社会は「よりまし」に少しずつ民意を反映した理想型に近付いていくのだ、と。選挙制度も民主主義も、もともとそういうことを想定し、成り立っている、といったニュアンスである。

 つまりは、選挙制度や民主主義自体も、「よりまし」なものと理解し、だから「諦めないで」と言っているようにも聞こえてくる。これは、もちろん正論ということにはなるだろうし、この発想が有権者を投票所に足を運ばせるものにならないとはいえない。

 ところが別の視点でみると、今、問題になっている自民党とその政権、もっと言ってしまえば、この国の変わらない政治と体質を温存させてきたものもまた、「よりまし」的な、これまでの国民の投票行動であったようにもとれる。つまり、政治家は選挙向けの、有権者が「よりまし」ととってくれる、「分かりやすい」公約をちらつかせたり、「それでも自民党」と思わせる「安定性」の強調で「よりまし」をイメージさせればよく、その効果は現れてしまう、ということである。

 野党が弱いという現実は確かにあり、「よりまし」を提示できていないというのが、もちろん彼らに有利に働くかもしれない。ただ、「悪魔のような民主党政権」にしても、「(さまざまな問題があっても)国民は選挙では忘れる」にしても、そうした発言が与党政治家から出て来ること自体、自らの政治と体質を温存できる、「よりまし」選挙の結果への自信と驕りにも見える。「よりまし」への手ごたえ、悪しき実績が、彼らに胡坐をかかせ、傲慢にさせているようにとれる。

 要するに、前記発想の基本は正しいとしても、選挙にあって単純に政策・公約の「よりまし」に飛びついて、そこだけに加点したり、期待して投票すること自体には注意が必要という、注釈が必要なはずなのである。

 では、われわれはどうすべきなのか。基本的なことを言えば、前記した彼らの手法の裏返し、つまり「飴」のような公約にひきずらず、できるだけ広く、彼らを監視すること。そして、その監視は、投票後も続け、その採点を彼らが期待するような忘却の対象とせず、次の選挙に反映させること。つまり、「よりまし」に対し、われわれが緊張感を持って接し、その緊張感を、選挙を通じて彼らに伝えるようにしなければならない、ということである。

 そして、緊張感ということでいえば、「落とす」選挙、「NO」を突き付ける発想をもっと極めるべきではないだろうか。この政党、政権だけは絶対にダメということから選択肢を考える。この候補者個人の人柄や発言にいくら惹かれても、この人の組織を変えられなければ、実はもっと根本的な体質の問題は温存されてしまう。政権や政党の現実をよく加味して、期待度を考える発想も必要ではないか。

 それでも、「そんなことを言い出したならば、結局、入れる候補者がいなくなる」という人は、やはりいるかもしれない。だからこそ、「よりまし」と言わなければ、国民は選挙に行かなくなる、と。

 ある憲法学者は、かつてこうした状況に至った有権者は、「白票を投じるべき」と言っていた。有効投票ではないが、投票率にカウントされる白票で、政治意識を示せ、と。投票率の低さ、棄権ばかりが注目されるが、それは政治的関心のなさとしてとらえられてしまい、より「該当者なし」「候補者はいずれも不的確」の意思表示にはなりにくい。

 前記「よりまし」論で投票を推奨する側の中には、一方で白票の政治的効果の薄さを強調する向きもあるが、投票率が高い割に得票率が低い、という状況を現出できることが選出母体へのメッセージにつながる可能性がある。

 今の我々が票を投じる選挙と候補者の関係で、決定的に欠けているのは、やはり緊張感であることは間違いない。彼らに「落選」の緊張感を与える行動がなければ、彼らも、この国の政治も変わらないし、選挙そのものの本当の効果も無意味化する。「よりまし」の選択が、彼らの緊張感を奪い、胡坐をかかせていないか、そのことに選択する我々の側が、まず、緊張すべきである。



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