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 〈クライアントとの心のこもった付き合い〉

  常識と人情と人の気持ちが分かるようになり、人を憂える、つまり人のことを心配し、人のことに気を遣い、いっしょに悩み、いっしょに考え、いっしょに泣き、いっしょに笑うことのできない人は、地方弁護士の商売面を考えた場合、向いていない。

 地方弁護士に向いていないと思う弁護士の傾向というか、性質を思い付くままに述べた。その反面、常識とか人情とか人の気持ちの分かる優しい人は、商売人としての地方弁護士に向いているということになる。自分はどちらかと考えてみると、歳を重ねる毎に地方弁護士に向くようになっているという気がしている。

 お中元やお歳暮に対し、「虚礼廃止」などと言う人は、地方弁護士には向いていない。お中元もお歳暮も素晴らしい習慣である。大事な人のことを心配しながら、盆と暮れにプレゼントを贈り、自分が元気でやっていることを知らせる。

 人間が好きな人なら、大事な人に年に一、二度、こういうことをするのは素晴らしいことだ。人を思い遣る心を具体的な行動で示しているのだ。この事に対し、虚礼などという人は、真心のない人付き合いを普段からしているからだ。それでは地方弁護士の商売という面で見たら、向いていないということになる。

 「虚礼廃止」などと叫ぶ人は、お中元にもお歳暮にも心を込めていない人だ。公務員などは、一度就職してしまえば、大きな誤りさえ犯さなければ、定年まで勤務ができ定期的に昇給し、退職金と年金がもらえる。そのような人のお中元やお歳暮には、虚礼という面がないとは言い切れない。

 しかし、商売をする人間には、虚礼などはない。虚礼、つまり形式だけの、真心の籠もこもらない礼儀などでは、客の心は掴めない。客の目は厳しい。虚礼が真心のこもったものかなど、すぐ見分ける。

 「虚礼廃止」を叫ぶ人は、自分自身が真心のこもらない人付き合いを普段からなしているからだ。虚礼廃止を叫ぶ人は、商売人に向かない。地方で弁護士事務所を開いても繁盛しない。自分が虚礼などと思い込んでいると、その気持ちは相手に伝わり、相手も本気での付き合いはしなくなる。一度は事件処理を依頼しても、長い付き合いとはならない。心のこもった人付き合いができない人は、地方弁護士という商売人には向いていない。心のこもった付き合いをすれば、弁護士とクライアントの関係は、一生のものとなることが多い。


 〈共に悩み、考え、泣き、笑い〉

 令和2(2020)年のお歳暮の令状には、「お歳暮を頂戴しました。ありがとうございます。虚礼廃止などと言う人もいますが、私はお中元もお歳暮も『虚礼』だとは思っていません。節目に大事な人からお中元やお歳暮を戴けると、昇天するほど嬉しいのです。『人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみです』という『いなべんの哲学』の実践そのものだと思えるのです。大事なあなた様よりお歳暮を戴き、私の人生は、この上なく、嬉しくなりました。本当にありがとうございます」と書いた。

 令和3(2021)年のお歳暮の令状には、「お歳暮を頂戴しました。嬉しくて、仕方ありません。本当にありがとうございます。高齢になってきますと、自分にとって大事な人が、お元気でいてくれることを確認できるだけで嬉しくなります。その上大事な方からお歳暮を頂戴したら、『生きていてよかった』と心の底から嬉しくなります。重ねて御礼申し上げます。本当にありがとうございます」と書いた。

 この気持ちに偽りはない。お歳暮やお中元を戴くのも好きだが、やるのも好きだ。人との付き合いが好きだ。この性格は商売に向いていると自負している。この性格でクライアントから長くお付き合い戴いていると自負している。

 「的外」と題して、月に一回、事務所便りを親しい人に送り付けるようになったのは、気仙沼市から一関市に事務所を移して間もない平成2(1990)年4月からだった。送り付ける相手は1000人を超えている。令和4(2022)年3月号で、第383号となった。この間32年間、一度も休んだことはない。10年間に及ぶ闘病生活中にも、一度も休まず続けた。事務所便りを読んでくれる多くの人は、いつの間にか事務所の後援者になってくれた。駄弁本や「いなべんの哲学」の広報を担当していてくれたり、伝道師を自称してサポートしてくれている。地方弁護士冥利に尽きる。

 平成30(2018)年5月12日に「癌体験記発刊記念講演会と病気と年寄りを楽しむ集い」を、事務所便りを読んでくれる方へ案内をしたら、全国から会場に制限人数一杯の500人が集まってくれた。いまや、この方たちの多くが、「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ』としいう「いなべんの哲学」の伝道師となってくれている。10年間にわたる死を覚悟した闘病期間中も休まないで事務所経営ができたのは、この方たちのお蔭だ。

 事務所便りとは別に駄弁本を書き、事務所便りを読んでくれる人に送り付けている。この本で150冊は超えた。関心のない人にとっては、迷惑なことだと思う。そういう方には、すぐ捨ててほしいとお願いしているが、捨てても、「いなべんから、また駄弁本がきた」ということだけは、印象に残る。何かの時に、いなべんに相談してみようと思うこともないとは限らない。

 「粘り強く 負けても頑張れ 最後まで」がモットーである。商売人は、一生懸命に続けるという根性が必要だ。結果だけを求めないで、人といっしょに楽しむという思いで、クライアントといっしょに悩み、考え、泣き、笑い、生きて行くことを楽しむという生き方が、地方弁護士の商売という面においては何より大事なことだと確信する。

 既に述べたが、地方弁護士の数は増えたが、裁判件数は増えていないと指摘されているが、その指摘は間違っているとは思えない。他の弁護士がどのように感じているかは定かではないが、自分はそういう印象が強い。そういう現状を踏まえると、地方弁護士は裁判事件だけに止まっていては、商売は繁盛しない。新たな仕事を開拓しなければならないが、そのための一つの方法として、地方弁護士は家庭医的存在とならなければならないという思いが湧いている。

 地方住民の日常生活に発生している悩み事に、気軽に応じてやれる存在になることが、地方弁護士が地方住民から必要不可欠の存在と認めてもらうことになり、その結果、地方弁護士の商売が繁盛するようになるのではないかと思う。

 (拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』から一部抜粋)


「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~16巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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