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 〈日本国憲法の究極の価値を奪う戦争〉

 基本的人権、つまり、「幸福に人生を全うしたいという権利」は、憲法や法律以前にあるものです。国以前にあるものです。人間が生まれながら有するものです。憲法や法律によって与えられたものではありません。国や天皇からもらったものでもありません。国よりも、天皇よりも大事なのです。だから、「国の存立を全うするため」とか、「自衛戦争なら許される」などという理屈は成り立たないのです。

 人命と基本的人権は、憲法や法律で奪うことはできないものなのです。「憲法や法律以前にある」とは、そういう意味です。この認識こそ大事なのです。少し難しく言えば、「天賦人権思想」であり、近代憲法の基本理念です。基本的人権を制限できるのは、他の基本的人権との調整が必要な場合だけです。この考えは、「公共の福祉」という言葉を理解する上でも重要な手がかりとなります。キーポイントです。

 日本国憲法は、人命と基本的人権を究極の価値としています。私たちは、この人命と基本的人権という究極の価値を物差しにし、ハカリにして、物事を計っていかなければならないのです。それが、日本人の心のよりどころです。

 この物差しやハカリで計った場合、戦争は最悪であり、絶対に採れない選択肢です。戦争は、国の行為によって自国民の生命と人権を犠牲にし、他国民の生命と人権を奪うことを目的とする行為です。絶対に許されないのです。だから、9条は死守しなければならないものなのです。

 戦争は、日本国憲法が究極の価値としている人命と基本的人権を奪うものです。他国の人の命や人権も、自国の人の命や人権と全く同じ究極の価値なのです。キリスト教徒であっても、イスラム教徒であっても同じなのです。ですから、歴史上最初に「完全戦争放棄」を宣言した日本国憲法の心は、世界の心となるべきものです。ノーベル平和賞を超越した、価値のあるものです。

 戦争の惨禍を体験した日本人は、そのことに気付き、深く反省し、憲法に「戦争の放棄」を謳い、それを具体的に保障するしくみとして、「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を明記しました。「戦争の放棄」の規定は、日本国憲法が究極の価値としている人命と基本的人権の保障から、当然に出てくるものなのです。人命と基本的人権を究極の価値とする日本国憲法においては、「戦争の放棄」は考え方の筋道として辿り着く、論理的帰結です。それは日本に限らず、世界に通ずるものです。

 そのことを理解せず、日本を「戦争ができる国」にし、「国防軍」を持とうとしている安倍政権の動きは、断じて阻止しなければなりません。これ以上、安倍政権の思い通りにさせたら、日本国憲法は死んでしまうのです。日本人の心のよりどころは、なくなってしまうのです。せっかく見つけ出した戦後の日本人の心のよりどころを、失ってしまうのです。そんな思いで、拙著「新・憲法の心」を書きました。


 〈人命・基本的人権を侵害していないかというハカリ〉

 私たち日本人は、「日本国憲法が究極の価値としている一人一人の、人命と基本的人権を侵害していないか。侵害する危険性はないか」というハカリを持っていれば、国や政権や指導者にマインドコントロールされることはないと確信しています。

 日本人の心のよりどころは、人命と「幸福に人生を全うしたい」という誰もが持っている基本的人権が究極の価値であるとする憲法の心を、一時も忘れず、このハカリで生きていくことだと確信しています。たとえ国のためであっても、一人一人の生命と基本的人権を侵害することはできないのです。これは日本人に限るものではありません。人類共通です。ですから、「国の存立を全うするため」とか、「自衛のため」などと理屈をつけても、戦争は許されないのです。それが憲法の心です。9条の心です。

 以前、「正義の戦争より、不正義でも平和がいい」と言った小沢昭一さん(1929-2012)の言葉を紹介しました(当連載第19回「平和憲法の危機 ①」)。正義か不正義かを判断するときにも、誰もが持っている「幸福に人生を全うしたいという基本的人権の尊重」というハカリで計れば、答えが出てきます。基本的人権を侵害することになる方を選ぶことは許されないのです。

 そのハカリで計れば、戦争を認める正義など絶対にありません。戦争は何よりも人命と基本的人権を奪う行為ですから、これ以上の不正義はないのです。戦争は、正当な理由付けなどできない「絶対悪」なのです。「正義の戦争より、不正義でも平和がいい」と言っているのは、「どのような理屈をつけようとも、戦争より平和がいい」と言っているのです。戦争を容認する正義などないのです。

 日本人の心のよりどころは、日本国憲法の中にあるのです。それは、基本的人権を究極の価値とするものです。その究極の価値を守るため、「完全戦争放棄」を宣言し、平和主義を謳っているのです。日本人の心のよりどころは、全体主義の「富国強兵」ではありません。個人主義の「基本的人権の尊重」と「平和主義」です。私たちは、この日本人の心のよりどころである「基本的人権の尊重」と「平和主義」を、心に刻みつけて生きるべきと確信しています。

 国よりも、一人一人の生命と基本的人権が優先するのです。最高裁判所は、第二次世界大戦後の日本国憲法の下で昭和23(1948)年3月12日、「一人の生命は、全地球より重い」と述べました。

 「一人の生命は、全地球より重い」というのは、日本人に限ったものではないことは明らかです。自国民であろうと他国民であろうと、一人の生命は全地球より重いのです。「他人の生命」を「自分の生命」に置き換えれば、よく理解できます。生命を失ったら、国も地球もないのです。その生命を奪う戦争は、絶対に許されないのです。それが心のよりどころです。

 私は、「日本国憲法の心が、日本人の心のよりどころである」と思うようになりました。そして、それは人類共通の心だと確信しています。そんな思いを込めて、命のある限り、人命と基本的人権を侵害する「絶対悪」である戦争に反対し、「完全戦争放棄」を宣言した日本国憲法の心を広めていきたいと思っています。

 司法試験に合格し、税金で司法研修所で勉強させてもらった身として、また、税金で「Gift of Life」(命の贈り物)をもらった身として、そうすることがこれまで世話になった方々に対し、恩を返す方法だと確信しています。これからも、書ける限り「絶対戦争反対」を書き続けます。微力ながら、「戦争絶対反対」の運動を続けるつもりです=この項終わり。

 (拙著「新・憲法の心 第14巻 戦争の放棄〈その14〉」から一部抜粋)


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