司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 「司法への国民の関心が高まっている」。今、法曹界の内外で聞かれる、こうしたくくり方に接するたびに、それが本当に意味していることを考えてしまう。

 こうした認識への一つの契機として、法曹界内外が共有するものは、やはり「裁判員制度時代」ということはあると思う。司法改革の大きな目玉政策である同制度の導入は、「国民の司法参加」の意義が、繰り返しマスコミを通じて伝えられ、これまで司法に関心がなかった国民にも、「あるいは自分も」という意識変化を生みだし、それが関心の高まりにつながっている、というとらえ方になる。

 あるいはこうした動きを、法曹界内の「改革」推進派の立場からは、裁判員制度がはやばやともたらしたプラス効果、さらには「改革」が目指すとされる「身近な司法」への第一歩という受け止め方がなされ、この点は、おおまかに大マスコミとも認識を同じくしているようにみえる。

 だが、国民の受け止め方は、果たしてそうくくりきれるのだろうか。実は国民はこの制度を納得したわけではない。この国に降って湧いた、国民動員の「強制」制度の意味に首をかしげている人はいくらもいる。多くの人間には、「国民の司法参加」の民主主義的と称されるようなプラスイメージだけが伝えられているだけで、あるいは真逆の危険をはらむかもしれない「強制」について、問題意識を呼び起こすような、報道が大マスコミを通じてフェアになされていないだけのことである。

 つまり、「司法への関心の高まり」の中には、推進派が描くイメージとはやや異なる、今進行していることに対する「疑問「疑念」に近い、国民の感情が多く含まれているとみるべきではないか、ということである。

 そして、これは必ずしも裁判員制度に限らない。この国の刑事司法の正義の根幹を揺るがせる検察不祥事、身近に医師のようになる触れ込みの弁護士の増員政策で伝えられる就職難と、ニーズがあるはずのなかでの経済困窮、門戸が広がるはずだった新司法試験・法科大学院制度で伝えられる失敗・誤算、さらに増員によって危惧され始めている弁護士の「質」低下など、国民からすれば、「司法は何をやっているんだ」と言いたくなる現実があふれ返っている。

 一方で、弁護士会内がこれまでにない、対立的な状況に陥っていることの原因も、ここにつながる「疑問」「疑念」であるといっていい。日弁連が目指す方向、さらに強制加入団体としての会内民主主義のあり方など、執行部と一般会員の意識の格差は、「乖離」という表現が用いられるようになっている。

 また、「改革」政策のあおりをもろに受けている若手のみならず、弁護士個々人が、それぞれの立場で、業務の未来に対して、「疑問」を抱き出している。

 こうした弁護士会内の世論状況や主張についても、大マスコミが国民の前に立ちはだかっている観がある。路線修正論や慎重論には、すわ「反革命的」といわんばかりの「『改革』を守れ」論がいわれ、弁護士の実情を伝える声には「甘やかすな」という論調が掲げられる。弁護士自身が反省すべき点が多くあるにしても、バイアスがかかったともとれる報道が、国民のフェアな判断を阻害しているととれるところもある。

 司法改革論議で、法曹界で通用している「統治客体意識」という言葉の意味や、「二割司法」の現状認識にしても、もし、噛み砕くように国民に伝えられたとしたならば、国民はさらに「改革」に、もっと強い「疑念」を抱いているはずだ。

 だが、冒頭のくくりの意味にかえれば、「それでも」というべきなのかもしれない。皮肉にも司法の縁遠さが、抑制の働きをしながらも、「強制までして、裁判員制度が今、どうしても必要なのか」「質低下のリスクを負ってまでして弁護士を増やす必要があるのか」「おカネのかかる新法曹養成よりも昔の一発試験の方がフェアな機会を保障していないか」などなど、「関心」の中身には、大マスコミを含めた推進派の「啓発」の思惑とは異なる国民の「疑問」が、まだ生きているように思える。

 この現実を大きくくくるとすれば、法曹界が内外に抱えた閉塞状況といっていい。

 さて、今回、司法の問題に対して、だれでも自由に意見が書き込める言論・投稿サイトとして、「司法ウオッチ」を立ち上げた。広大なネット空間には、それこそ個人が発信した多くの意見があふれているが、目にとまる拠点として、このサイトがささやかながら機能することを目指したい。そして、そのことが、少しでも前記したような状況を変える方向で、貢献できれば、と考えている。少しでも多くの方の、意見が示されることを期待している。



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