司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>




 

 コロナ禍対策としての「給付金」支給に併せて、岸田政権はマイナンバーカードの普及を打ち出してきた。しかし、これにはなんとも違和感を禁じ得ない。

 その内容は、マイナンバーカードに絡んで最大2万円分のポイントが付与されると謳うものだが、新たにマイナンバーカードを取得すれば5000円分、カードを健康保険証として使う場合は7500円分、さらに預金口座とひも付けすれば7500円分――がもらえるというのである。

 「まるで携帯会社のキャンペーン」と表現したメディアもあった。しかし、コロナ対策に便乗して、国民のお得感を刺激し、何とかして制度拡大を図ろうとする思惑がみえみえである。とりわけ、「給付金」という国民への支援策と併せた、奇妙なインセンティブ策は、筋違いといわれても仕方がない、まさに便乗策ととれる。

 この違和感につながる嫌な感じの中身は、大きく二点ある。一つはインセンティブ策そのものが、国民感情を非常に侮っている感じがする点だ。透けて見えるのは、こういう形のメリットならば、この時期だけに国民が飛びつくのではないかという思惑である。

 そもそもこの制度は、一貫して、手続きなどが「いろいろ便利になる」という触れこみで、国民を動かそうとして、うまくいっていない現実を抱えている。コロナ禍への支援という大義名分にかこつけて、またぞろお得感で制度の普及を図ろうするようにとれるのは、何やらコロナ禍の中の国民の足元を見ているようにとれてしまうし、延々とカード取得を煽られている感もある。要はそれでもいけるはず、というのが彼らの思惑ということになる。

 そして、さらに本質的な点は、そもそも問題がプライバシー侵害の危険が指摘されている制度であるということだ。日本弁護士連合会がマイナンバー制度の問題点について分かりやすいQ&Aをまとめているが、「公平・公正な社会の実現」「国民の利便性の向上」「行政の効率化」といった政府の掲げる導入理由はいずれもあいまい。その一方で所得をはじめとする個人情報は把握され、現在の税・社会保障・災害分野での利用に止まらず、今後他分野や民間利用まで広がる可能性もあり、情報漏えいの危険も指摘されている。

 国民の中にあるプライバシー侵害への恐れによる抵抗感が、制度普及の壁となっているとすれば、なおさらコロナ対策に乗じたインセンティブで何とかするというのは、まさに国民をなめた、お門違いのやり方といわなければならない。まして、さらなる支援(上乗せ)の条件化ともとれるやり方を平気で繰り出してきているのである。

 インセンティブではなく、徹底した説明による抵抗感の除去によらなければならないことはいうまでもない。それを回避しなければならないこと自体にも疑念が生まれて来る。

 メディアも一部を除き、こうした切り口で、この問題を取り上げていない。ともすればデジタル化の遅れにばかり注目し、こうしたしゃにむに進める制度拡大に疑問を投げかけるのを疎かにしているようにもみえる。  ワクチンパスポートも同様だが、国民の動機付けを作り上げ、メリットの強調だけで、国民の抵抗感を乗り越えようとしたり、人権にかかわる詳密な議論を回避しようとする、ある意味、あからさまな試みが、この国ではいまや堂々と提示されている。煽り、仕掛けて来る側の問題は当然だが、侮られ、煽られ、仕掛けられている側が隙はないか。私たちの自覚も問われなければならない



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