司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 
 人材が集まらないということは、業界を問わず、極めて深刻な、致命的問題であるといっていい。業界の発展はもちろん、そこに集められる社会的な使命や役割も、すべて実現不可能になることを考えれば、必然的にこのテーマは業界が解決すべき最優先課題となることに異を唱える人はいないだろう。

 

 今、法曹界がこの問題に直面しているという認識は、多くのこの世界の人間が共有することにはなっている。法科大学院の潜在的な志願者を示す法科大学院適性試験の出願者数をみれば、2003度に大学入試センターで3万9250人、日弁連法務研究財団で2万43人に上っていたのが、2010年度には大学入試センターが8650人、日弁連法務研究財団が7820人、2011年度からは、法務研究財団だけの実施で7829人、2014年度は4407人に。法科大学院入学者数も2004年度が5767人、2006年度の5784人をピークに一貫して減少し、今年度2201人となり、競争倍率もついに2倍を切って1.87倍になっている。

 

 ただ、これほどはっきりした敬遠傾向があり、それを誰も否定できない状態にありながら、果たしてこの世界の受けとめ方は、業界崩壊といえるような危機感を伴っているだろうか。そんな疑問をどうしても抱いてしまうのは、この原因を直視することなく、まるで当初の甘い見通しを捨てきれないかのように、延々と期待感を未来につなごうとしている「改革」路線のあり方を目にするからにほかならない。

 

 年間3千人を目指した司法試験合格者数を1500人程度以上に下方修正。平成27(2015)~30年(2018)度を「法科大学院集中改革期間」と位置づけ、各法科大学院で各年度の修了者の司法試験の累積合格率がおおむね7割以上となる教育を目指す。合格率や定員充足率などの指標を用いて法科大学院の認証評価を厳格化。法令違反があった場合には学校教育法に基づき、改善勧告や組織閉鎖(閉校)命令を段階的に実施。予備試験は、法科大学院改革に合わせて必要な制度的措置を検討――。

 

 政府の法曹養成制度改革推進会議の方針決定が報じられている(産経ニュース6月30日)。最終決定原文が公表されていないが、報じられている内容は既に明らかになっている決定案で示されていた通りである。

 

 しかし、法曹界離れの大きな原因が弁護士の経済的状況の悪化にあることはもはや否定できない。逆にいえば、ここが回復しない以上、志望者の戻って来ることも望めない。そして、この悪化の最大の原因は、弁護士激増政策による過剰供給にある。「3000人」の旗が降ろされ、「1500人以上」になっても、増員基調が続く以上、さらなる増員にも耐え得るほどの需要開拓の期待にすがらなくては、志望者回復の現実化は望み薄である。

 

 その楽観視ともいえる前提を考えた時、果たして志望者減少を本当に危機感を持ってとらえているのか、という前記疑問がとうしても頭をもだけてしまうのである。決定案で①法務省においての、法曹有資格者の専門性の活用の在り方に関する有益な情報が自治体、福祉機関、企業等の間の共有、「国・地方自治体・福祉等」「企業」及び「海外展開」各分野における法曹有資格者の活用定着への環境整備②日弁連・弁護士会においての、法曹有資格者活用への自治体、福祉機関、企業等との連携、法曹有資格者養成・確保に向けた取り組み推進③最高裁においての、司法修習生が前記各分野を法曹有資格者の活躍の場として認識する機会を得ることにも資する観点から、実務修習(選択型実務修習)の内容の充実――が挙げられ、②③には「期待される」という文言が付されていた。

 

 増員基調と、時間的経済的負担の「価値」を示せない法科大学院というプロセスの強制を絶対に動かさないという「前提」にしがみつく以上、ある意味、法曹有資格者活用拡大の「期待感」のうえに立たざるを得ない。そのこと自体が、もはや志望者減に歯止めをかけることを最優先課題としている姿勢とはいえないのではないか。彼らには、別の優先課題があるのだ。そもそも、この「前提」と「期待感」は、これからこの世界を目指すものに、説得力のあるものだろうか。多くの志望者が、その無理を見抜けば、もちろん敬遠に歯止めはかからない。

 

 しかも、これは2011年にスタートした「法曹の養成に関するフォーラム」から4年かがりで出された結論であり、さらに法科大学院制度つまりプロセスの負担強制は、少なくとも向こう3年間維持することも打ち出されている。この間、法曹界離れに歯止めがかからない、少なくとも根本的に多くの人材が志望する世界に戻ることはないという見通しは、悲観的すぎるだろうか。

 

 「有為な人材が多数法曹を志望するよう改革を推し進めていく」

 

 方針決定を伝える前記報道によれば、閣議後の記者会見で上川陽子法相はこう語ったという。法相自身が現在の「改革」路線をどのように認識し、「有為な人材が多数法曹を志望する」という目的達成への期待感と結び付けているのかは分からない。ただ、もし、仮にこの方針決定をもって3年後、事態は改善せず、「有為な人材が多数法曹を志望」する方向に向っていなかったとき、その提案した関係者はなんらかの責任を背負うことになるとしたならば、今、彼らはこんな「前提」と「期待感」の上に立っているだろうか。



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