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 「規制緩和」とは一体、誰のためのものなのか――。今、改正案の動向が注目されている労働者派遣法という法律をめぐって、一番感じている、あるいは感じてきたことは、そのことだといっていい。直接雇用が原則の労働者に対する、中間搾取の合法化といえる同法は、「規制緩和」の名のもとに改正され、派遣労働という形態が広がらないための、その最後の歯止めとして派遣社員受け入れ上限3年、専門26業種の期限撤廃というところまできていた。

 

 それが今、また「規制緩和」のもとに、受け入れ上限を業務単位でなく、人単位にして、有期雇用と無期雇用を区別し、有期雇用も3年ごとに派遣社員を換えれば、認められる形が導入されようとしている。派遣の固定化、つまりは前記原則破壊の決定打になる。民社党政権時代に打ち出され、2015年施行予定の規制強化である違法派遣の直庸みなし規定の効果も実質的になくなる、という見方が出ている。

 

 この間の「規制緩和」が一体、誰のためのものか、誰の利するためという意向を背景にしてきたかは、明らかだ。いうまでもなく、労働コストが念頭にある経済界と、利益・業務拡大を図りたい派遣業界である。「働き方の多様化」とか「自由」ということが、「規制緩和」という錦の御旗に被せて推進派によって主張されてきたが、透けて見えるものははっきりしており、また、それは実にあからさまである。

 

 この「規制緩和」を声高に唱えてきた竹中平蔵氏が、大手人材派遣会社「パソナ」の取締役会長であることは知られている。彼は発言に際し、「慶應義塾大学総合政策学部教授」という肩書と使い分けているようだが、派遣業界にとっての格好の利益拡大につながる政策を強く後押しするその姿から何を読みとるべきかは、説明するまでもない。こんなあからさまな利益誘導を彼が胸を張って主張できるのも、「規制緩和」という御旗のお陰である。

 

 10月30日付け朝日新聞は「社説」でこの問題を取り上げ、あくまで目指すべきは「均等待遇」であり、「派遣会社に支払うマージンが必要な派遣労働は直接雇用より割高になり、コスト目的で派遣労働を使うことへの歯止めとなる」としている。もちろん、「均等待遇」原則の実現は重要な意味を持つ。ただ、それはその実現可能性と、引き換えとなる派遣固定化のリスクをあわせて考えなければ、現実的ではないだろう。逆に、この政策を推進する側が求めている「規制緩和」の真の効果をなくす政策に、彼らが同調しないことも明らかだからだ。

 

 派遣労働者にとっては、解雇不安の緩和などメリットがある、という見方もある。ただ、いうまでもなく、それは労働者が置かれる環境として、何と比較するかによるというべきだ。冒頭の原則から、私たちの社会がさらに遠のくことを、多様化や自由などあたかも可能性拡大をいう「規制緩和」論者の主張に乗っかって、私たちは認められるのか――。彼らのいう「規制緩和」がもたらすものに、いまこそ私たちは厳しい視線を向けるべきときである。



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