司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>




 

 災害や事故・事件の記憶や教訓は、悲しいかな時の経過とともに、人々の中から薄れていく方向に向かう。そして、それを知っていればこそ、人は英知をもってして、それに抗い、未来に伝承・継承しようと努力する。いうまでもないことであるが、わが国と国民にとって戦争も、そしてより記憶に新しいところでは東日本大震災も、そういう存在のはずである。

 数々の戦争体験者のそうした活動を目にしてきたが、東日本大震災のあとも、そのままでは必然的に訪れてしまう「風化」の現実を踏まえ、震災と原発事故の教訓を次代に伝えようとする試みが、いくつもみられた(福島民友新聞)。これらはいずれも、「再発防止」や「危機回避」を未来の社会や人間たちへ伝え、警鐘を鳴らし、あるいは道を再び踏み外させないための、彼らへのいわば「愛」に突き動かされているといってもいい、とても人間的な活動に見えた。

 しかし、この試みに反しているようにとれるものがある。語弊があることを承知で、あえて言えば「風化」を待っているようにみえる人たちの存在である。なぜ、彼らに「風化」が必要かといえば、その人たちの価値観からすれば、その記憶と教訓が、彼らにとって望ましくない中断を生む、あるいは生んでいると、見えているからにほかならない。

 こういう言い方に、おそらく彼らは不本意であると言うだろう。あるいは「中断」を解消することも、未来への「愛」であると言うかもしれない。しかし、「風化」を待たなければ繰り出せない、あるいはそれを見計らって繰り出して来る彼らを私たちはどう捉えるのだろうか。この国に原発を復活させようとする人々の策動に感じることとは、まさにこういうことなのである。

 「この国で原発推進は、二度と掲げられなくなった」。福島第一原発事故後、識者の中からは、こういう言葉が聞かれた。しかし、現実は、直ちにゼロには出きない、依存度を減らす、それでも原発はこの国に必要と、時の経過とともに、そのニュアンスは復活の方向で変遷し、そして再稼働の現実化。やがては、半ばそれを仕方ないものとして受けとめるような社会ムードまで作られてきた。

 そして、今年8月、歴代政権がそれでも踏みとどまっていた原発新増設に踏み込む方針転換を、岸田文雄首相は打ち出した。「突然」という表現も一部メディアにみられたが、自民党や電力業界、官僚など、いわゆる「原子力村」といわれる方々の、従前からの意向が裏にあり、この一連の復活の流れにそれが反映してきたという見方もある。

 彼らの台頭を許しているのが、時の流れによって自然に発生した「風化」だけとは言い切れない。福島原発事故被害は依然解決しておらず、「核のゴミ」の解決策も全く見えない。岸田首相が開発・建設を打ち出した「次世代革新炉」なるものがどんなものかも多くの国民には皆目分からない。そもそも、これだけで、本来、原発新増設ありきの方針転換など、完全にアウトである。

 メディアがそこを厳しく追及しているか、といえば、そうでもない。むしろ「次世代」などという、とってつけたようなネーミングに、国民が惑わされ、何やらこれまでとは違う、新たな安全なものが登場すると、イメージしてしまうことへのクギを刺すような風もない。

 さらに嫌な気持ちになるのは、この件に関して、早くも与党方面から、「国民の理解」とか「説明責任」といった、お決まりのワードが聞えてくることである。このワードに私たちは本当に警戒する必要がある。改めていうまでもないかもしれないが、「国民の理解」は、政権にとって、それに向かって「努力した」という口実化の道具と化し、「説明責任」もそれを果たしたかどうかは自分たちの判断によるのであって、ハナから国民が決めるものではないと考えていることを、ここ歴代の自民党政権は、まざまざと国民に見せつけたからである(「『丁寧な説明』と『国葬』強行が示す劣化」「『決められる政治』のなれの果て」)。

  世論の反対の声が多数の中、岸田首相自ら「丁寧な説明」を口にしながら、最後まで十分な国会審議も経ず、法的根拠も不明確なまま、強行された安倍晋三元首相の「国葬」。「国葬」直前に実施された朝日新聞の世論調査では、「反対」56%、「賛成」38%。ちなみに、岸田首相の原発新増設発言直後に行われた、同じ「朝日」の世論調査で、新増設「反対」は58%、「賛成」34%と奇しくも賛否同じような傾向の数値となっている。「口実」の先に、またしても「強行」が待っていないかを中止しなければならない。

 「教訓」を「風化」させない努力する人々を突き動かすもののなかに、この国と国民の未来への「愛」を見たと書いたが、私たち自身が、いよいよこの視座から、原発をめぐる、これからの動きを確信的に見定める必要がある。



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