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 放送局が政治的公平性を欠く放送を繰り返したと判断した場合、放送法違反を理由に電波法に基づき電波停止を命じる可能性があることを指摘した、国会での高市早苗総務大臣の発言が波紋を広げている。

 

 2月29日には田原総一郎氏らジャーナリスト7人が「所管大臣の『判断』で電波停止などという行政処分が可能であるなどという認識は『放送による表現の自由を確保すること』『放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること』をうたった放送法(第1条)の精神に著しく反する」などと抗議する声明を発表した。

 

 また、同日行われた会見で、呼びかけ人の一人である岸井成格氏は、「政治的公平性というのは、権力側が判断することではない。これはわれわれメディアが一番気を付けなきゃいけないこと。こういう言い方すると、よく政治家との大討論になるがあるが、政治、政治家、官僚、これは必ず大事なことはしゃべらないか隠す。場合によってはうそをつく。このことが前提で取材しない限り、本当の報道っていうのはできない。それはもうずっと感じてきた。暴くだけでなく、本当のことを知らせることが、国民の知る権利にきちっとメディアが応えるということだ」などと述べている。

 

 声明でも触れられているが、メディア側にはこうした権力側の姿勢とともに、メディア内部での自主規制、忖度、委縮の広がりに対する強い危機感がある。

 

 彼らの発言を見て、今、情報を受け取る側の国民は、まず何を考えなければいけないのだろうか。実は、国民側にも大きな弱点がある。それは情報を受けとる側の主体性の問題だ。岸井氏が述べるように、メディアこそが政治的公平性を判断し、伝えることが国民の知る権利に応え、それによって私たちが権力をチェックできる。そのラインは、まず、保障されなければならない。

 

 一方で、あくまで報道の事実は、「真実」の断面である以上、偏りは生まれる。そこで情報を取捨する主体も、また、国民であるわけだが、そこでその姿勢が問われることになる。欧米に比べて、日本では、報道を横並びに検討して、その真実性を比較・取捨するような土壌が、国民のなかに出来あがっていないという見方がある。ネット環境によって、大きくそれも変わってきているようにもみえるが、一つのお気に入りメディアを作り、それを「信じられるメディア」として、ともすれば盲信する傾向もあるようにみえる。

 

 まさに、そこを権力に突かれる。本来、そのいくつものバラついている「事実」の報道をすべて提供されたうえで、判断するのは国民であり、逆に判断するためには、さまざまな角度、さまざまな問題提起をする情報を受け取る必要があることを国民は譲ってはならないはずなのだ。ところが、そうした主体性が希薄であるほど、岸井氏がいうところの、隠したり嘘をいう権力側が仕掛けてくる、バラツキが「誘導」を生むという「公平性」の主張への対抗力もまた、弱くなってしまう。

 

 そのなかで、バラツキが生まれるメディアよりも、権力の方が「公平性」判断の主体として的確であるような、「錯覚」が国民に生まれ、ものの見事に前記した保障されなければラインをひっくり返すという、われわれの主体的判断を阻害する主客転倒が起こるのである。それこそが、権力側アプローチの狙いといっていいのではないか。

 

 これは居住マンションへの「政治的」といわれるようなビラ配布の問題(葛飾政党ビラ配布事件)を思い出させる。管理組合の意思ということが焦点になるケースではあるが、本来は政治的であるか商業的であるかを問わず、とにかく受け取れるすべての情報で、こちらが判断したいという主体的な意思が住民側に強ければ、そもそも権力の介入は阻止できる。あるいはゴミになるのが迷惑であるとか、「政治的」なものに対する住民の拒否感は、本来、権力側からは伝えてほしくないものを伝えないためには好都合に働くかもしれないのだ。

 

 声明のジャーナリストたちが懸念するメディア内の委縮にしても、受けて側の強い要求、ちゃんと伝えろ、伝えないメディアは見ない、選択しないという意思表示の支えによって、押しとどめられるかもしれない。少なくとも、読者までが権力の「公平性」判断に期待するというのであれば、それが委縮という方向にどう働くかは明らかといわなければならない。

 

 この委縮という問題が取り上げられた同日の衆院予算委員会で、安倍晋三首相は、「報道も間違えることもあるし、事実と違うことを報道することもある。そのときは訂正していかなければならない」「週刊誌に、隠し子がいると断定された」などと語ったと報じられている。こうした発言で、「なるほど」と思ってくれる国民だろう、という大きな侮りが、彼らの中にあることに、私たちは気付かなければならないのである。
 
 高市氏の「電波停止」発言に対する抗議会見(BLOGOS) 



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