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 「偽ニュース」という、インターネット時代を象徴するような問題が話題となっている。誰でも情報を発信できる時代に、虚偽の情報がながされる。このテーマを取り上げた1月31日、朝日新聞朝刊オピニオン面に登場した三人の識者の一人、アリゾナ州立大学のダン・ギルモア教授は、これを「ジャーナリズムを偽装して発信される、実際はウソの情報」と定義している。

 

 これは、インターネットという環境が大衆に提供された時点で、遅かれ早かれ問題になることが十分に予想されたものということはできる。誰でも匿名できる発信できるという、この環境のメリットは、情報の信ぴょう性について、責任の所在がぼやけている、という、情報にとっては決定的な欠陥をはらんでいたからだ。

 

 匿名情報には、時に内部告発に近い「魅力」を大衆に感じさせるものがある。ネットにおける匿名性の価値をその点で強調する論調もある。また、大新聞の記事という性格からというわけではないかもしれないが、朝日の前記企画で識者があまり言及していない決定的な要素として、この問題は既存メディアへの不信という要素を抜きには語れない。

 

 福島原発事故を契機に、メジャーメディアは真実を伝えていない、という信頼低下が、前記内部通報的な魅力を醸し出しつつ、ネット情報への期待感につながっている。そのことが、逆に、「偽ニュース」を成り立たせる環境をより作っているともいえる。

 

 情報の真偽を見分けるリテラシーの必要性が、このネット情報の弱点への大衆側の対策としていわれてきた。ただ、これは現実的には、ネット環境擁護に都合のいい、現実性が低い、別の言い方をすれば、大衆にはハードルが高い対策案といわなければならない。メディア側の努力で、リテラシー教育の可能性があったとしても、それには明らかに限界があり、いわば、それができれば苦労しないというレベルのものだ。

 

 「偽ニュース」のひろがりには、前記した発信者にとってのネット環境の容易さとともに、信じたい情報が提供される結果という面もある。そこに広告収入を目当てにする発信者が、真偽関係なく介入する状況がある。その意味では、一見受信者側のリテラシーが、この構造を壊せそうにみえるが、ネット環境に慣れれば慣れるほど、いちいち多様な情報から検証して、疑ってみるということは、利用者にとってネット環境の利便性を投げ捨てるような、自覚と努力がいるだろう。

 

 結論からいえば、発信者が責任を負うという形がどうしても求められてくる。匿名性を否定、制約することもまた、偽装ではなく、ジャーナリズムと見分けがつかない形で肩を並べるのであれば、ある意味、当然だ。もちろん、ここでもネット効用論との対決になるだろうが、もし、逆に大手メディアのあり方に対抗することに価値を見出すのであれば、そこは避けて通れないだろう。

 

 「偽ニュース」とは異なるが、ネットという環境のなかで、同じような側面を持つ問題が、法律関係でも生まれている。ネットの質問サイト(投稿者の質問に、複数の投稿者が回答する)の法律相談系のやり取りの中に、専門家からみた場合、明らかに間違った指南がなされ、それが複数回答のなかで「ベストアンサー」として扱われることが問題になっているのだ。

 

 専門家が間違った回答をしている場合や、専門家を偽装しているととれる場合、あるいは偽装ではなくても素人が安易に回答している場合など、さまざまなケースは考えられる。また、何がベストかは、質問者の評価なので、それこそ主観が入り、場合によっては、自分に有利な内容を評価してしまっているかもしれない。誤った知見が、誤った評価によって、伝搬する危険性が考えられるのだ。

 

 もちろん、これは利便ということでは、一般に評判は悪くない。いちいち弁護士にコンタクトをとらずとも、ちょっと聞きたいことを簡便に無料で聞けるのだから、誰だって魅力を感じるだろう。ただ、ここには逆の意味で、まず、大衆が認識すべきこと、弁護士からすれば啓蒙しなければならないことがあるというべきだ。つまり、弁護士の法律指南はあくまで有償課金サービスであること。要は安全性の面でも、それは安易な手段に頼れないという認識である。

 

 司法改革に関連して登場した、弁護士の隣接士業の有効活用というテーマでは、特に隣接側には、サービスの利用者側による選択ということを強調する向きもあった。つまり、サービスの価値をコストともに、自由に選択できる形(サービスの不備の結果は自己責任で受益者が負う)が望ましい、ということだったが、無料・利便性に飛び付く大衆の傾向を見たとき、そこには危いものを感じる。無料・利便性と対峙しつつ、知識へのコストをいかに教育・啓蒙していくのかところに、結局、行きつくように思える。

 

 ただ、ここで前記「偽ニュース」とメディア不信の関係を考えると、やはりここでも弁護士不信は、大衆の動向に影響を与えることは想像に難くない。これもまた、「改革」に絡む、別の問題として浮かんでくる。

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