司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 国家は国民に正直でなければならない。また、国家が最低限堅持すべきそのことに、国民もこだわり続けなければならない。いうまでもないことだが、そうでなければ、国民は今、この国で自分たちがどういう状況に置かれているかを把握できず、それがいかに危険なものであっても、国民自身がその回避を求めることができない。

 

 この極めて単純なことを、私たちは4年前の福島原発事故で学んだように思う。しかし、そのことを私たちは、同じこの原発事故の問題を通して、今もこの国の権力に対する、強い不信感とともに、繰り返し肝に銘じなければならない状況にある。福島第一原発から港湾外の海に汚染水が流出、それを東電が公表せず、原子力規制委員会にも放射性物質の検出状況が公表されていなかった問題で、2月25日午後に行われた菅義偉官房長官の記者会見。

 

 「港湾外の海水の濃度は、従来からこれを公表している。法令告示濃度に比べて、十分に低い値であることが、事実として判明している。港湾外への汚染水の影響は完全にブロックしている。状況はコントロールされている

 

 この日、菅官房長官は、仮に低い濃度であっても、影響が出ている以上、「ブロックされている」という表現は、正確性を欠くという記者の突っ込みにもかかわらず、この「ブロック」「コントロール」の表現を押し通した。政府の「被災者の、福島に寄り添う」という対応とかけ離れているという記者の指摘に対しては、「放置したわけではない」と語気を強める一幕もあった。

 

 この状況について、「影響は完全にブロック」されていると誰が考えるのだろう。当然、ブロックされずに流出を許し、それが国民に公表されずに、原子力規制委員会にも報告されていなかったという現実を、「コントロール」下にある、と抗弁できるとは到底思えない。

 

 いくつかの事実を私たちは振り返らなければならない。汚染水が流出し続け、それが港湾に流出している可能性が指摘されながら、「アンダーコントロール」、港湾内に「ブロック」と強調した2013年の国際オリンピック委員会(IOC)総会での安倍晋三首相の五輪誘致スピーチ。そして、それを全くなぞるように就任後の初めての現地視察のあとの会見で、この二つの言葉で現状を表現した小渕優子・経済産業相(当時)の記者団への発言。その一方で、これまでも放射性物質の検出、流出を繰り返し公表せず、その都度、反省や弁明を繰り返してきた東電の対応。

 

 この状況を「コントロールされている」「完全にブロック」と表現し続けることの既定方針化、しかもそこにはこうした東電の対応を許し続けることは、まるで「コントロール」とは別問題のような安倍政権の姿勢も透けて見える。

 

 そして、もう一つ思い出さなければいけないのは、2011年の事故のさなか、度々、メディアに対して、人体への影響を否定しながら、のちにそこを突っ込まれると、「現時点」と断っていたとか、「断定はしていない」などと弁明した枝野幸男官房長官(当時)の発言である。

 

 彼らには、「正直」でないことにメリットがあるのかもしれない。しかし、われわれにはデメリットしかない。可能性として、最悪の事態を「正直」に伝えられてかまわないし、しかも、これらのケースでその可能性が極めて低いなどと本当に彼らが認識している保証もない。可能性の話でパニックを起こせない、という「外れる」責任をいう人もいるが、国民は意外に冷静であると思うし、何よりも可能性についての真実を知りたいし、知る権利がある。

 

 その場合、のちの可能性を考えれば、彼らのなかに当然「伝えなかった責任」を追求されるリスクへの認識が全くないとも思えない。ただ、それよりもまして、今、「正直」になるわけにはいかない、彼らにとってのメリットがそこにある、と類推するしかない。私たち国民を危険にさらす可能性があり、また、現に危険にさらすことを引き換えにした、彼らのメリットである。

 

 「正直」ではない権力を私たちは信じられないし、むしろ「正直」であるかどうかを常に疑わなければならないのが権力の現実であるといわなければならない。原発問題に限らない。安倍政権が推し進める安全保障政策にしても、治安立法にしても、自分たちの側の認識のなかのメリットで、都合のいい理屈と現状認識だけを伝え、この国を国民が本当は求めていない未来に導こうとする画策に対して、私たちは何度でも本当のことがフェアに語られているのかを問い続けなければならない。

 

 そうでなければ、民主主義国家の国民として、私たちが彼らを「コントロール」していることにはならなくなる。



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