司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 

弁護士会の担当者が言う、「S弁護士が私たちに『不利益』を与えたのか」という確認的な問いかけに、私か「はい」とこたえたあと、二人の間に、しばしの間、沈黙の時間が流れた。ここで話が終わってしまっては、次への解決にはつながらないように感じた私は、彼に尋ねた。

 

 「この問題は、どのようにしたら解決の糸口は見つかりますか」

 

 すると、彼は、こう切り返してきた。

 

 「さぁ、まだ分かりませんが、いろいろと金銭的なこともあるようなので、その先生と、もう一度話し合いをしてください」

 

 S弁護士と話し合いをすることは、もちろん前提で、ここに来ていた。私としては、これから先の建設的な話が聞きたかった。そういうことを、弁護士会というところに期待していたのだ。しかし、この時点で、具体的に弁護士と話し合うためのアドバイスは、弁護士会側から出てくる気配が全くなかった。

 

 果たして、こちらが話した内容を理解してくれたのだろうか。市民が司法に対して不信を抱いたことを考慮してもらえたのだろうか。そして、弁護士会というのは、やはり市民側でなく、基本的に弁護士側に立つ組織なのか――そんな疑念ばかりが、私のなかで広がっていった。

 

 「仮にですが、こうした案件で、もし拗れた場合はどうすればよいのでしょうか。やはり紛議調停でしょうか」

 「まぁ、まぁ、それは、その・・・」

 

 曖昧な回答しか返ってこなかった。弁護士が辞任したというだけで、紛争のなかにいる、一市民からすれば、一大事なのだ。事案の全体が分からないから、やたらなことはいえない、という慎重な姿勢なのかもしれないが、これは全くわれわれのような立場に置かれた市民からすれば、まったく頼りにならない、役に立たない弁護士会の姿勢だった。

 

 こちらとしては、S弁護士とこれからどう話を進め、拗れた場合の、どのような手段が残されているのか、そのことをもってして、いわば「駆け引き」となる材料が必要だった。逆にS弁護士側は、もちろんこういう依頼者とのトラブルについても、当然、辞任を覚悟した時点で、こちらの出方に応じた対策を用意周到に持っているだろうと思っていたからでもあった。だからこそ、こうした局面に立たされた、司法の現実を知らない市民に対する、明確な弁護士とのやり取りに関するアドバイスを弁護士会に求めたのだ。

 

 「万が一、話し合いが難航した場合、再度こちらに来てください、その時は、こちら側も仲裁に入るか検討しないといけない」

 

  事前のアドバイスはできない、拗れたらその時に、といことか。やはりこういったことへの「指導」は避けたいのだろうか――そんな印象を感じた。

 

 話の内容を少し変え、今、直面している裁判等について、彼のアドバイスを求めてみたが、「まずは、とにかく、その弁護士と話し合いを」の一点ばりで話は終わり、この日、それ以上の回答は得ることはできなかった。

 

 やはり一度、辞任をした弁護士の復帰は厳しいのかな、そんな気持ちが頭をもたげていた。父の希望もあって、私たちは「復帰」を前提に動き出した。しかし、もしS弁護士の「復帰」が事実上絶望ならば、この時点で、すぐにでも代わりの弁護士探しを始めなければならないとも考えていた。そして、この時には、やはりこの裁判を「プロ」に任せて乗り切りたいという強い思いがあった。

 

 正直、気持ちは焦っていた。弁護士会館を出た私は、このままS弁護士のもとを訪ね、話をつけようとも思ったが、やはりこちらの「窓口」を一本化したという筋を通すため、とりあえず兄に託すことにして、郷里のいる彼に今日のことを連絡した。 



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