先月ネット上にホームページを公開した、「先導的法科大学院懇談会」(Leading Law School7 、略称LL7)という団体が弁護士界周辺で話題なっている。同ホームページ上には、構築中のようで、公表されている情報は少ないが、会そのものについては、「法曹養成に大きな実績をあげている7つの先導的法科大学院(Leading Law School)によるコンソーシアム」としており、その7校とは、東京大、京都大、一橋大、神戸大、慶応義塾大、早稲田大、中央大の各法科大学院ということである。
この7法科大学院が連携して、あるべき法科⼤学院教育の実践例について、その実像と魅力を総合的・多面的に発信しするとともに、法科大学院制度が直面⾯している多くの課題について、「『プロセスとしての法曹養成制度』を中核的に担う立場から議論し、その成果も広く発信して、法曹養成教育の展望を示」す、といったことも、その目的として、ホームページ上では示されている。
ただ、どうしてもこだわって見てしまうのは、この「先導的」という言葉である。法科大学院のいわゆる上位校の一部に、この言葉をはてはめる形は、これまでも文部科学省の議論で登場していた。制度のなかで実績を上げているところを、いわば「成功事例」として注目し、そこを制度全体の問題解決の突破口にしたいということだろう。つまりは、法科大学院制度を成功に「先導」する存在という期待の仕方になる。
しかし、最大の問題は、その制度の「成功」の先に、肝心のあるべき法曹養成の成功を描き込めるのか、そもそも描き込んでいるのか、という点だ。基準に満たない大学への補助金をカットすることを打ち出し、事実上、撤退促進政策となっているとされた、文科省の「法科大学院公的支援見直し強化・加算プログラム」で注目する、加算対象の「成功事例」には、グローバル化への対応やビジネスローヤー育成を意識しているものが並ぶ。特色のある教育が、基準となる司法試験合格率に反映した、あるいはそうしたところに人が集まり、定員を充足させている、というストーリーになる。
他校もこれに倣って続けば、志望者を獲得し、制度は現在の苦境を乗り越えられるということだろうか。
「大きな実績を上げている」とされた7校と制度全体の実績を押さえておかなければならない。結論からいえば、この7校も志願者数、入学者数、司法試験合格率、いずれもこの5年間下降し続けているという現実である。文科省の調べによると、7校の2013年から17年の志願者数実績では、この間約900人減でほほ半減した早稲田大が目立っているほか、東京大も約300人減でそれに続いている。入学者数も早稲田大がこの間、ほぼ半減しているほか、中央大でも4割減という規模の減らし方である。
もっとも現実的な評価につながるはずの司法試験の合格率は、2016年単年実績で、一橋大(49.6%)を筆頭に、東京大(48.1%)、京都大(47.3%)、慶応大(44.3%)の4校が、40%を上回り、累積合格率では一橋大の80.9%を筆頭に7校とも60%以上(京都大78.2%、慶応大76.1%、神戸大71.0%、中央大68.9%、東京大63.6%、早稲田大61.5%)となっている。
しかし、単年の合格率は、2012年からの5年間、7校とも下降している。神戸大13.5ポイント、慶応大9.3ポイント、一橋大7.4ポイント、京都大7.0ポイントのいずれも減少という状態だ。
さらに、制度全体でみると、2016年に入学があった43校中定員を100%満たしたのは一橋大一校で、43校全体の定員充足率は66.4パセーセント。司法試験合格率では募集停止校を含めた59校中、2016年単年の平均20.7%を上回ったのは13校、累積合格率平均51.0%を上回ったのは15校で、全校中同年単年で30パセントを超えたのは、前記「先導的」7校中の中央大を除いた6校だけというのが現実である。
7校が比較において実績があるとしても、その決定的要素が魅力ある教育の実践の効果、「成功」であるかどうかもさることながら、この制度全体の落ち込み、志望者が離れる根本をにらむと、この7校の実績と魅力ある教育の実践が、この状況の制度を現実的にどこまで「先導」できると考えているのか、端的に言えば、この状況を作り出している原因を直視せず、上位校7校の実績で、ここまで傷付いた法曹養成は回復できるのか、という気がしてくるのである。
要は、この7校を「先導」校とする期待感とは、法科大学院制度そのものの枠組みを根本的に変えない、つまりは基本を変えない制度延命という前提のなかで絞り出されたもので、決して法曹養成の現状や志望者の動向から逆算されたものにはみえない、ということである。そうだとすれば、当然のことながら、この状況の根本的な解決にはつながらない。法曹の増員政策の無理と、同政策を支えることを前提とした法科大学院制度の強制化の負担を、まず、「改革」の失敗として見直すところから始めなければ、状況は変わらない。
グローバル化への対応を含め、「先導的法科大学院」の教育内容そのものに期待する志望者も、当然、いるかもしれない。しかし、少なくとも、それが制度存続への関係者の期待を担うものになったとしても、それが志望者回復の決定的のための解になるとはいえない。7校の「実像と魅力」はこれから志望者に向って発信されるのかもしれないが、こうした期待の仕方が志望者にとって、そして法曹養成の一日も早い正常化にとって、ミスリードにならないかを、今後も注視する必要がありそうだ。