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 〈広告禁止で利益を得るのは消費者金融業者〉

 (以下、上告理由書引用の続き)

 第8 今日、憲法21条の表現の自由についての権利は、経済社会の高度化、情報化の著しい今日の社会においては、広告その他営業的言論、表現についても、国民の知る権利や情報受領権が極めて重要になっていることから、その営利的言論の自由も、憲法21条は保障しているというのが憲法学会の多数説であるといわれている。そして営利的言論である広告については、憲法21条の表現の自由権と憲法22条の営業の自由権の保護の問題とも重なり合っているとされる。

 営利的言論が、表現の自由保障に含まれる理由について芦部教授は、「憲法学Ⅲ 人権各論(1)316ページ」で米国最高裁の処方医薬の価格広告規制違憲判決を紹介し、そこで「社会にとっても、自由企業経済を維持する限り、資源の配分は数多くの私的な経済的な決定を通じて行われるのだから、その決定が全体として聡明に、かつ十分国民に知らされてなされることは、公共の利益に関する事項であるとのべ、営利的情報の自由な流通は不可欠であり、表現の自由の自己統治の価値を高める目標にも寄与しないとは言えない旨説いている。この判決が法令違憲の結論をとった最も大きな理由は、受け手の表現の自由(知る権利)を重視し、処方薬の消費者が薬価情報を受ける自由を知る権利として初めて認めたことにある。」と述べている。

 そして営利的表現の自由についての違憲審査基準として米国で定式化した4段階分析、ハドソンテストを紹介している。

 それは、「(1)まず、営利的言論が表現の自由保障規定の範囲内に入るためには、それが少なくとも合法的な活動であり人を欺くようなものであってはならない(違法な活動に関連したり、人を欺いたりする営利的なメッセージの規制には憲法上の異論はない)。

 (2)次に、そういう合法的活動に関し正確に公衆に情報を与える表現について主張される公権力側の規制利益が実質的であるか否かが問われる。(3)以上二つの要件が充足された場合、右規制が規制利益を直接に促進するものか、また(4)その利益を達成するのに必要以上に広汎でないものか否かが判定されなければならない。」というものである。

 これを本件の規制(東京司法書士会規範規則第3条(6)「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」禁止規定)、の場合に当て嵌めてみると(1)については上告人の広告は人を欺いたり押し付けたりするようなものではないし、穏便で常識的な勧誘行為であって、報酬価格も日司連の基準にそくした妥当な価格であった。(2)については、被上告人の規制により得られる利益が、被上告人の品位と信用の維持であるとすると、それを実質的な利益といえるかどうかは疑問であるが、それが認められ、以上の二要件が満たされたとしても(3)規範規則第3条(6)「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」禁止規定が、被上告人の品位と信用という利益を直接に促進するものとも言えない。品位という外観と信用の維持を図る方法は「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」の禁止によらずとも他にいくらでも方法はある。そして、やはり(4)その利益を達成するのに必要以上に広汎でないものか否かが問題となる。司法書士の品位と信用を維持するためには、「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」の禁止によらずとも他にいくらでも方法はあるのではないか。「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」の禁止によらずとも他にいくらでも方法があるとすれば、司法書士の品位と信用を維持するために「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」を禁止するということは、その利益を達成するのに必要以上に広汎な規制、規則となるから(品位、信用という言葉の内容は容易に特定できないほど広い)憲法21条に違反する規定であるという事になる。

 東京司法書士会規範規則第3条(6)「司法書士の品位又は信用を損なう怖れのある広告」により、「消費者金融会社の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと」という被上告人の注意勧告によって、上告人は「取引履歴の取り寄せによる債務残高の調査と利息制限法による再計算サービスの提供」の広告宣伝勧誘が出来なくなるが、その禁止によって失われる消費者の利益は、弁論の過程で明らかなように、巨額なものとなる。さらに、この注意勧告事件を日本司法書士会連合会が、日本司法書士会連合会の機関誌、月報司法書士に全国に公開したため、懲戒を恐れて貸金業者のATM付近で、ATM利用者に対し、上告人の極めて安上がりな、誰でもできる営業、広告方法を取り入れる司法書士、過払い金の被害者に対し残高調査サービスの提供をする司法書士もいなくなった。その結果、司法書士の同業者間競争はなくなり、価格競争もなくなって、消費者の自由な選択による市場も成立しなくなった。

 このことによって利益を得たのは一体誰か。

 原審、第1準備書面で示したように、約定利息で計算した残高を表記した領収書をATMで発行し続け、過払いを知らずに払い続けるという、錯誤に陥っている消費者からの、大量の不当利得返還請求を免れている、アイフル社、アコム社等の消費者金融業者なのである

 被上告人の上告人の広告禁止によってこうむる、消費者、国民の失われる不当利得という権利行使機会の喪失による巨額の損害に対して、被上告人、東京司法書士会の得る司法書士会、「司法書士の品位又は信用」という被上告人の主張する傷つけられた利益の損失との比較の結果は、一体、どれほどのものになるのであろうか。消費者の損害を上回る、消費者の損害を犠牲にしても仕方のない公益と言えるのだろうか。規制により得る被上告人の利益と、上告人らの失われる利益とを単純に比較衡量してもどちらに正義があるかは明らかである。よって、上告人の表現の自由、憲法21条の権利は守られなければならない。




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