司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 憲法を護り憲法規定の核心である人権規定を何よりも尊重する事、司法書士が登記事務専門職の域を超えて法律家を自称するならば、何よりもまずこの国の基本法である憲法を理解し、条文及び学説、判例、憲法訴訟において確立されてきた違憲判断の基準などについての知識を取得するべきである。

 
 しかしながら、司法書士法2条職責規定は「業務に関する法令及び実務に精通して・・」とあり、国の基本法には精通していなくても良いととられかねない規定となっている。実際、立法者はそのように考えていたのではないか。学歴無用の登記実務家に憲法などは知らなくて良いというのが政策立案者の判断であったのであろう。とすれば、一般法律事務を職責の範囲に加えた現在においては、法務局の司法書士団体への監督指導の在り方は是正するべきと言える(立法案作成者編著の「注釈司法書士法」参考 解釈解説の一部には批判すべき点もある)。

 
 加えて同職責規定には「常に品位を保持し」なくては「ならない」という義務規定がある。品位についての考え方、評価には百通りも千通りも、過去現在を通じての文明の個数ほどあるだろう。このような要件不明な規定にはそもそもが、法規範性などないのであるが(このような規定に法的強制力、法的効果をもたらすとすれば、それは中世に舞いもどるということになる)、司法書士会執行部は、会員統制に、しばしばこの品位保持「義務」規定を乱用し、それを会執行部も会員も納得している。であるからこの訓示規定の司法書士会執行部の乱用についても批判する司法書士が少ない。それどころか、執行部のその乱用に脅えている始末である。

 
 弁護士法では司法書士法のように2条の見出しが「職責規定」とはなっていない。それは「弁護士の職責の根本基準」となっており、品位については「高い品性の陶やにつとめ」とあり努力規定であることが明示されている。憲法上の権利は国民の自然権に由来する国民の不可侵の権利であるから、国民自身への憲法遵守の義務規定はない(自分の権利に自分で履行遵守義務を課す必要はない)。むしろ国民の基本権を過去から現在に至り、かって侵害し、現在においても侵害しかねない一部国民に対し遵守、履行義務を課している。憲法99条は「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」とある。

 
 ようするに役人公務員の地位にあるものは、登記所の職員も、人権規定をその職務の内外において最大限に尊重する義務があるということだ。司法書士法の3条業務にのみ規制されている私人たる司法書士と、国民から身分保証という代替措置を与えられた上で業務内外において、24時間公務員という身分において包括的に憲法、法律忠実義務が課せられている公務員とはその立場が全く違うのだ。

 
 司法書士は公務員ではない。司法書士はただの私人、一般国民であるから人権の享有主体であって、役人にたいしては、逆に国民として人権の尊重を命じ要求する立場にある。司法書士は、ただその司法書士法3条に限定的に規定された職業において、その範囲内において公益を理由とする業務規制を受けるだけであり、この業務の範囲を超えて監督官庁およびその指導下にある強制加入団体が、司法書士を規制するならば、その処分又は法令は、憲法13条の個人の尊厳と自律性、自由を侵害する処分又は法令であって、無効であり、人格権侵害を理由に損害賠償と地位回復に必要な措置をとるよう裁判所に請求することになるだろう。

 
 ところで、平成24年版の東京司法書士会関係法規集は、556ページ(約3センチの厚さ)の規則集となっている。その冒頭部分は「司法書士倫理」となっており、それは全91条となる。以下東京会会則・・となるが、この566ページの大規則集の中には、この国の基本法、憲法に関するもの、ふれるものは、条文、解説含めて一切ない。会員相互を規律しようとする倫理規定の拘束力が、憲法の人権規定の効力に優先するとすれば、その倫理規定は憲法違反であり公序良俗に反する団体規約となって無効となる。従って、会規約集はまずその冒頭に規定の基礎原理となる憲法の条文を大見出し大活字で掲載するべきなのである。

 
 このように司法書士集団が憲法と人権に無頓着であるということは、内閣府の指摘を待つどころか、司法書士団体そのものが、単なる登記等業務独占団体であって消費者の選択権を価格規制(細田氏のサラ金報酬価格規制に見られるように)により侵害する、公益性に疑問がある団体と評価されても仕方がない。確かに私的自治の世界で、取引安全、迅速の登記事務双方代理を専業としていたつい先頃までは、憲法の知識が常識以上に業務上、職責上必要とはされていなかっただろう。実際司法書士資格試験にはつい先頃までは憲法の試験はなかった。現在の連合会含め、司法書士会の執行部の大半が法律家、専門家として保持すべき水準の憲法、この国の基本法、人権規定の知識について欠けているのは、そこに原因がある。



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