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 〈「日本国憲法のバイブル」〉

 株式会社有斐閣発行の「註解日本国憲法」(昭和28〈1953〉年11月10日、初版第1刷)という本は、日本国憲法の解説書としては、最高レベルのものであり、「日本国憲法のバイブル」ともいうべき本だと確信します。日本国憲法は、昭和21(1946)年11月3日に公布され、同22(1947)年5月3日に施行されましたが、この「註解日本国憲法」は、日本国憲法が公布されてから約7年後に発行されたことになります。

 同書の序には、次のように書かれています。

 「新憲法を實際に眞に正しく運用するためには、深い學問的基礎に立ちつつ、新憲法の各規定につき、あらゆる角度から問題を提起して、これに解答を與えたような、詳密且つ良心的な研究が絶對に必要と考えるが、遺憾ながらかような書物はいまだ殆ど見當らない。しかしある意味においてはそれも當然のことと思われる。けだし多岐にわたる憲法の各規定について、かような研究をなしとげるのは、とうてい一人の學者の單獨の力に期待しうることではなく、そのためには諸法域にわたる多數の學者の緊密な協力にまたなければならないからである」

 「法學協會はこの點に思いをいたし、編集委員會において、東京大學の有志研究者を動員し、その共同研究によって、新憲法に關する詳密な逐條的註解書を刊行することを企畫した」

 法に関わっている者が、日本国憲法を論じる時には、この本の存在を無視しては通れません。学問の自由を語る上でも、この本がどう語っているかを読まないでは話になりません。ですが一般大衆は、そこまでやらなくてもいいと思います。一般大衆のために、「田舎弁護士の大衆法律学」と題して、このようなものを書いているのです。これを読んで頂けるだけで十分です。

 ここでは「註解日本国憲法」の骨子を噛み砕いて解説してみます。古い本ですから、古い字や現代人には分かりにくい言葉などもあります。まず、原文を紹介したうえで、分かりやすく、説明しながら、私の考えを述べてみます。私の考えは、この本から学んだところが多いのですが、私なりに理解し、味わった上で、誰にでも分かるように説明してみます。


 〈政権も世間も干渉してはならない学問研究の世界〉

 「註解日本国憲法」は、憲法23条の「学問の自由は、これを侵害してはならない」という規定について、「趣旨・目的」と題して、次のように述べています。

 「本條は、いわゆるacademic freedomを定めたものである。過去においてわが國では學問の自由は以下に述べるような事情で必ずしも充分に實現されていたとはいえないので、その經驗に鑑み、憲法中に新しく取り入れられたものであり、學問の自由闊達な研究發展は、民主主義的傾向の復活強化の前提であること、及び日本の企圖する文化國家の建設は學問の自由を必須の要件とすることに基くものである」

 「學問の自由は内容的には第一九條で保証される思想の自由に含まれるのであるが、沿革的に一般的な思想の自由に對して特に學問の自由として論議されて来たのは、次のような理由による」

 こう記したうえで、以下のように述べています。学問の本質を言い得ていると深く共鳴します。全文を紹介して、コメント(解説)を少しだけしてみます。

 「(1) 學問は創造的な人間精神の貴重な成果であり、人類文化の集中的な表現であるから、これに對しては特別な配慮と、特に愼重な取扱いが望ましいこと」

 学問研究の本質を、言い得て妙です。このような学問に対し、安倍政権も、菅政権も特別な配慮をなすべきで、干渉すべき余地などなかったのです。

 「(2) 學者、研究者はその領域における専門家であり、その領域において指導的立場にあるいわば『選ばれたる人』であるから、通常人を對象とし、通常人の平均的水準に立脚する政治や行政が、その判斷に基いてみだりに干渉すべきではなく、國家も社會もその獨立性を尊重すべきであること」

 ここは、これ以上の説明は不要です。学問の本質と、学問研究に国家権力が干渉してはならないことの理由を言い尽しています。学問研究は、専門家の領域であり、政権や世間が干渉してはならない世界なのです。

 学問の世界は、多数決で決められるような世界ではないのです。「選挙に勝てば何でも出来る」等と思い上がってはならないのです。それでは馬鹿丸出しです。そんな馬鹿を国の指導者に選んだら、選んだ者に責任があるのです。

(拙著「新・憲法の心 第29巻 国民の権利及び義務〈その4〉」から一部抜粋)


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