司法書士の成年後見制度への取り組みについて、細田氏は言う。司法書士は「早急に、自ら襟を正す必要がある。リーガルと連合会を初めとする各会が一丸となって、後見人等に就任している会員に対し、残高証明書を提出させる等、詳細な報告を求めて不正を洗い出し、仮に、不正があれば明らかにしなければならないと考える」。
後見人に就任している会員への、業務監督責任は、その会員を後見人に選任した監督庁である家庭裁判所にあるのではないか。連合会と各(単位)会が一丸となって、後見人等に就任している司法書士の後見業務を監督し、関係書類を押収するなどの行為がまず法的に認められるものであろうか。法律上、または法律の委任なく、目的の善悪はともかく、単純に会則遵守義務という抽象的規範を根拠に、司法書士事業者の自由財産権プライバシー権(憲法13条)を侵害して良いのであろうか。強制加入団体がここまで司法書士個人の尊厳や行為の選択権に介入するには、やはり国会の議決による司法書士法の改正が必要なのではないか。
簡裁代理業務や訴訟書類作成権、成年後見といった、双方代理を可とする例外的な登記ビジネスとは全く異質と言って良い法律業務について、憲法択一3問、刑法択一3問、といった登記書式中心で論文式考査なし、学歴不問の試験のみで合格してきた司法書士により構成されている司法書士会に、同一の資格者である同僚の司法書士に対してつべこべ指導出来るような法律判断能力、法律解釈能力があるのであろうか。
特に、簡裁代理業務や成年後見業務については、その歴史は浅いから、執行部役員と一般会員との経験の差を指導会員資格として論ずることは出来ないだろう。
最近、リーガルサポート(司法書士の作った成年後見事務のための公益社団法人)の公益性につき内閣府からその剥奪を警告され、司法書士会は大騒ぎである。細田氏の後見人司法書士の執行部による捜索令状なしの事務資料要求の提案の背景にはこのような騒動が背景にあるのだろう。
かって、私も東京会の綱紀委員をしたことがあるが、綱紀委員の多数のものが、罪刑法定主義という原理も言葉も知らないことに唖然とした。今でも事情は変わらない。東京会の綱紀委員は、まず委任契約とか代理行為とか使者とか嘱託とか、委任契約における自由裁量権とか、こうした法律用語を、意味や範囲を正確には知らないのである。
法解釈と適用の世界は、文学の世界とは違う。その用語の概念の内容範囲を正確に知らなければならない。何故なら法律用語は法律効果を及ばすからである。民事事件においては当事者の意思を尊重して柔軟に解釈するが、人権を制約する行政や刑事事件、司法書士の懲戒事件等においては用語の意味範囲、内包外延を厳格に解釈しなければならない。拡大解釈、類推解釈は、人権保護のために禁止される。
我が東京司法書士会の綱紀委員はこのような解釈原理を理解しない上に、分からなければ法律学辞典等で調べればよいのに、法律用語を自分の国語常識で解して平然としているのである。
さて司法書士会に懲戒権があるわけではないが、懲戒権者である法務局長の「嘱託」を受けて、法務大臣認定の会則に基づき司法書士会は、会員司法書士の調査は出来る。しかし刑事手続きにおいても、捜査段階の被疑者への審問は任意が原則であり、強制捜査には裁判所が発行する捜査令状が必要である。とすれば、例え会則に司法書士への調査権が規定されていようが会員への強制は出来ない。
当然ではないか。法務局長には強制調査権があるのだろうし、それについての手続法も多分抜け目ないからあるに違いない。そうでなければ、裁判か審査請求で面倒なことになる。しかし司法書士会には強制調査権もなければ、会員の協力義務もあくまで協力の要請にとどまるのであって、強制力は無い。もし法律によらず会員に対し、強制調査をすれば、憲法違反の人権侵害となる。この場合、司法書士会は強制加入団体であるだけに司法書士会執行部による人権侵害の責任は厳しく追及されることになる。
以上のような法の常識を知らないから、細田氏のような発言が昼間堂々、司法書士会の会報上でなされ、しかもそれが編集部によって掲載されるのである。司法書士には人権感覚が欠落していると少なくない会員が不平を呟くのを聞いたことがあるであろう。人権感覚の欠落とは、以上のようなことを言う。
こういう非常識が書士会館を大手をふってまわれて来たのは、金か能力のない司法書士には司法書士会の非行を人格権侵害で訴えるなど、書士会にも証明責任を負わせて公開の法廷で訴え、世論にも訴えることが出来なかったからである。弁護士会では会員が弁護士会を訴え新聞紙上を賑わすのは日常茶飯である。群馬義捐金訴訟はあらゆる憲法、民法の書籍に掲載され有名であるが、司法書士連合会及び単位会執行部は危うく負けそうになった最高裁判決を一貫して無視し続けてきた。会員の人権と強制会執行部の業務執行権が争われた貴重な裁判から何も学ばず、公正取引委員会の勧告も今はすっかり忘れてしまったようである。有名な教科書、内田貴先生の民法1の240ページ(第3版)を読むと良い。
さて、成年後見でまず何が一番大事か、それは、国連から日本の成年後見の運用が批判されたように、なによりも人権感覚、憲法13条の個人の尊厳と幸福追求権を尊重することなのである。その欠落を国連から非難されたということは、政府が非難されたということであり、監督庁である法務省が非難されたということであり監督責任者裁判所も非難されたということである。そこで内閣府から司法書士におとがめがあった。しかし受験予備校のテキストしか読まないで、司法書士はこの憲法の基本原理を理解出来るのであろうか。この原理を業務指針として依頼人に適切な後見サービスを提供できるだろうか。
そこで司法書士諸君に宿題です。立憲主義について100字以内で答えよ。