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 旧統一教会と政治家の関係が、メディアを通して、連日取り沙汰されている。その深いつながりがどう解明されていくのかと同時に、霊感商法などが問題になってきた教団自体に対して、今後どう対応していくのか。そのいずれについても、現段階では先がみえない。

 被害者救済の政府の連絡会議も設けられたが、岸田文雄首相自らとの関係が週刊誌に書かれ、釈明に迫られるに至っても、首相の態度からは、前記問題に取り組む積極性は伝わって来ない。異論が高まっている「国葬」を前に、世論の逆風をなんとかしたいというだけではないかと疑うほどに、前記問題解決への期待感は、さらにしぼんでいく感じがする。

 だが、この状況を見て、改めて不思議な気持ちにさせられるのは、すべてが7月8日の安倍晋三元首相の暗殺事件に端を発していることだ。現段階では確定的なことはいえないが、犯行の動機とされることを辿っていった先に、この教団の存在が現れたのが、すべてのきっかけである。

 ここに一つ問題が、加えられていいように思う。つまり、あえて言えば、この事件が発生しなければ、という仮定を被せる意味で、いわば「たまたま」冒頭の問題が追及されることになった現実を、私たちはスル―していいのか、という問題である。

 なぜ、政治も大手メディアも、政治家との癒着という問題と、教団そのものの問題について、その追及に今回の「たまたま」を待たなければならなかったのか。そのことが、今後、解明されることの方は、今の時点でどのくらい期待できるのだろうか。

 「追及しなかった」という事実について、もちろん政治家に関しては、冒頭の癒着解明のなかで明らかになるのかもしれない。しかし、大手メディアに関してはどうであろうか。霊感商法などおよそ1980年代から教団の問題性、その教団が選挙支援などで政治に深く食い込んでいた事実を、どの大手メディア関係者も認識していなかった、などとはとても思えない。

 今のところ、そのしっかりした弁明に当たるようなものが、大手メディアから表明されているようにはとれないが、場合によっては、ここにもう一つの政治との癒着の問題が浮かび上がることも想像できてしまう。書けたが書けなかった、追及できたが追及しなかった、という闇がメディアの側にあるのかどうか――。

 さらに、付け加えたいのは、すべてのきっかけとなったと書いた安倍元首相暗殺事件そのものについてである。発生から一ヵ月半が経過し、「国葬」の是非はともかく、事件そのものについては、不思議なくらい話題として取り上げられなくなっている。これは、あたかも犯人の動機が個人的な恨みとして「確定」し、そしてその「確定」の上に、旧統一教会をめぐる前記問題に論点も社会の関心も移ったかのような印象を持ってしまう。

 思い出されるのは、事件直後の動機をめぐる世論間のやりとりである。この暗殺事件に最初にも飛びかったのは、「民主主義への挑戦」という論調である。ところが、ほどなく犯人の動機として、教団が絡む個人的な逆恨みのような話が伝えられると、世論の空気が少し変わった。政治家などから、取ってつけたように言われた「民主主義の挑戦」という括りに、事件の性格を歪めているかのような異論がネット上で出始めたのである。

 印象的なやりとりがあった。SNSで、ある弁護士たちが、前記括りに対して、個人的な逆恨み動機説を根拠に、ことさらに「民主主義」を持ち出す論調に呆れ返るようなやりとりをしていたのに対し、別の弁護士が、次のような趣旨の言葉をぶつけたのだ。

 「選挙期間の応援演説中の政治家が暗殺されたのが、なぜ『民主主義への挑戦』ではないのか」

 あえて言うまでもないかもしれないが、犯行の動機がたとえ個人的な恨みであっても(もっともそれ自体確定的なことは現段階では言えないはずだが)、結果としての「効果」を考えれば、国民の目線から見て、「民主主義への挑戦」という見方はできるはず、というよりも、そう受けとめるべきことではないかという話になる。

 弁護士だから、被疑者の動機からたぐり寄せた事件そのものの性格にこだわったということもできなくはないかもしれないが、逆に弁護士をしても、捉え方が分かれるのである。そうなると、なおさら結果的に、教団と政治家の問題が、ここまでクローズアップされている現在からみて、あの日、その政治家たち身が、こぞって「民主主義の挑戦」と口を揃えることで、隠したかったもう一つの真意、狙いも疑ってみたくなる。

 しかし、それもさることながら、あの事件を「民主主義」とは無縁、さらにいえば、それが仮に犯人の動機が教団に対するもっていきどころのない憤りと恨みだとしても、冒頭書いた、この国の「民主主義」を背負っている政治家とメディアの、「追及できなかった」姿勢とも、無縁であるかのように、切り離せるのかという気がどうしても残るのだ。

 そもそも事件の真相はまだ分からないのだが、あの暗殺事件発生を辿る先には、いずれにしても、この国の「民主主義」の危機的状況が浮かび上がって来るように思えてならない。



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