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 長期間の審理が必要な事件を、裁判員裁判の対象から外し、職業裁判官だけの裁判で行う仕組みを導入する方向が、法務省の「裁判員制度に関する検討会」で検討されていることが報じられた(朝日新聞2013年3月10日付け朝刊)。裁判員選任手続きから、100日を超えるような事件が除外対象とされる案が出ているようで、直接的にはさいたま地裁の首都圏連続不審死事件で100日に及んだことなどから、裁判員の負担ということが問題として浮上したことか影響しているものとみられる。

 しかし、「朝日」も触れているが、公開されている前記「検討会」の議事録を見ても、これに対しては慎重論が、市民感覚を反映させるという制度趣旨に反するという慎重論が出されている。同会の委員で裁判員制度推進派として知られる四宮啓弁護士は、昨年10月9日の同会13回会議で、こう述べている。

  「基本的に、長期に及ぶから対象事件から外すということには反対なんです。特に今日の資料の3によると、これらの長期の事件を裁判員の皆さんは本当に真摯に務め上げてくださっているわけですね。やはりそのことに応えていく必要があるのが一つと、こういう事件こそ対象にすることによって、充実した迅速な裁判が実現できるのではないか」

 一方、委員の山根香織・主婦連合会会長は、市民の負担の問題とともに、結果として、この長期裁判を務めることが可能な人間が限られ、偏った裁判になることへの懸念を指摘している(同13回会議・16回会議提出資料)。

 要は、裁判員制度存続を最優先させ、その弊害となる参加する市民の負担を除去するために、制度を見直すという主張に対して、制度推進してきた側から、その趣旨に反するという主張が出されていることになる。

 だが、見方としては、これだけではないと思う。つまり、長期裁判を例外にして、外すということが、現実化している裁判員制度自体の問題である。「裁判員の参加に関する法律」3条の裁判員裁判の対象事件除外規定では、裁判員や親族に「生命、身体若しくは財産に危害が加えられるおそれ」がある場合など検察官・弁護士の請求や裁判所の職権で、職業裁判官だけの裁判にできるとされているが、長期裁判はそれに加えられる方向とされている。これと同列に並べる根拠性があるかどうかということもさることながら、長期に及ぶ複雑・重大事件では、国民の意思を反映さず、職業裁判官の合議でいいというのであるならば、何も刑事裁判に国民参加を強制してまで導入する必要があるのか、ということがいえてしまう。

 そもそも国を相手にする行政裁判など、もともと本来、国民の声が反映すべきものの対象化を全く念頭に入れていない制度ではあるが、「国民参加」の旗を降ろさないためだけのご都合主義によって、このような不均衡で矛盾した裁判の形になることは許されるのだろうか。

 前記「危害が加わるおそれ」があれば、職業裁判官でいい、という論理も、同じことがいえなくないが、長期・重大事件除外に至っては、その矛盾がより明確になっていないだろうか。その意味で、推進派の立場から四宮弁護士が主張している「こういう事件こそ」論は、この矛盾の現れであると同時に、彼自身が、裁判員の熱意を持ち上げながらも、実はそれを十分認識していることを示している。これを認めてしまうのは、矛盾だと。

 「朝日」が1面で、他紙に先駆けて、この方向を報じたことを推察すれば、どうも同紙は、長期裁判除外の方に旗を挙げたようにとれる。とにかく、制度存続最優先。そのための負担除去。大衆の支持も、負担軽減でいいじゃないかの方に当然傾く、という読みが見てとれる。今回は、反応を見るためのアドバルーンということで。

 しかし、とにかく「国民参加」という大義の前に、あれだけ掲げた「理念」までかなぐり捨てた制度提案が始まっている現実と矛盾こそ、われわれはこのアドバルーンから読みとるべきではないだろうか。



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