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 〈「いなべんの哲学」の実践が試される場〉

 「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ」という考え方は、田舎弁護士を50年以上経験して生まれた私の生き方です。気どっていえば、哲学です。気障ですが、この考え方を「田舎弁護士(いなべん)の哲学」などと呼んでいます。

 相続問題にどのように対応するかということは、この「いなべんの哲学」が実践されるかどうかを試すには絶好の試金石です。「法律に従うだけだ」という考え方も一つの生き方ではありますが、自分の生き方は自分の気持ちで決めるものです。国が決めた法律に従うだけでは、自分で自分の生き方を決めているとは、言い難いのです。

 「いなべんの哲学」は、前記したように「まわりの人といっしょに、人生を楽しみ尽くす」というものです。まわりの人の中でも、最も大切な人は親族です。夫婦、親子、兄弟などです。この最も身近で最も大切な夫婦、親子、兄弟等の関係において、相続問題は発生します。「いなべんの哲学」が実践されているかどうか、そしてそれが実現されるかどうかは、この相続問題という局面で試されるのです。

 法律の専門家のはしくれでありながら、このように言うのは、法律も医療も生き方の一手段に過ぎず、最も大事なのは、どう生きるべきだからです。法律や医療という知見も楽しく生きるための手段であり、それ自体は、目的ではありません。人生の目的は、楽しく生きることにあります。

 相続問題は、夫婦、親子、兄弟という最も身近で最も大切な人たちと人生をいっしょに楽しく生きるうえでの問題です。相続問題で失敗してしまいますと、「まわりの人といっしょに楽しみ尽くす」という「いなべんの哲学」は実現できなくなってしまいます。

 「いなべんの哲学」を実現するためには、相続問題での失敗は許されません。最も身近で、最も大切な人と骨肉相食む争いをしていては、人生は楽しみ尽くせません。そこで、相続問題において、「いなべんの哲学」はどのように実践し、実現すべきかということを考えてみます。


 〈付け焼き刃的な知識での対応はやめるべき〉

 結論を先に言います。相続問題は生き方の問題です。「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くす」という生き方の根本的考え方、つまり、「いなべんの哲学」を実現するにはどうしたらよいかを考え、その目標に近付ける方法を選択すればいいのです。

 その方法は、法律に決めてもらうわけではありません。自分の気持ちで決めるのです。相続に関わる人皆が幸せになるためにはどうしたらよいかを、相続問題に関わる人それぞれの気持ちで決めることなのです。

 相続に関わる人それぞれが、「相続は、まわりの人といっしょに、人生を楽しむアイテム」ということをしっかりとむ認識し、そのアイテムを活かすためにはどうすべきかを理解し、こうしようと納得したうえで、互いに譲り合って合意することが不可欠です。気持ちと気持ちで決めるのです。気持ちと気持ちの歩み寄りで決めるのです。

 相続問題に関する法律の知識をインターネット情報や、法律の本を読んだり、弁護士などから聞いて、付け焼き刃的に一部分だけの知識を得たからとて、そんな知識だけで「いなべんの哲学」を実現することなどできません。

 そんな付け焼き刃的で、部分的な法律の知識などで相続問題を解決しようとしたら、骨肉相食む争いとなり、最後は「親族関係断絶」となりかねないのです。難しいことではありません。普段、互いに持ち合っていた夫婦、親子、兄弟間の普段持ち合っている思い遣りの気持ちに従えばいいのです。

 相続問題となったら、これまで知らなかったのに、インターネット情報で入手した付け焼き刃的で部分的な法律知識を持ち出し、法律や裁判で解決しようなどと考えないで、普段通りの生き方の問題として、自分の気持ちで決めればいいのです。

 (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)


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