〈老人の不安に寄り添い、国、地方に提言する使命〉
人生を長く経験してくると、いろいろなことを体験する。余命宣告も受けた。臨死体験らしきこともした。依頼事件に関係して自死した多くのクライアントも、数多く目にした。東日本大震災、三陸沿岸巨大津波では、昨日まで一緒に食べ、飲み、笑い、泣いていた多くの親しい人を一瞬にして失った。人生を考える機会は多かった。毎日10人近いクライアントと会い、一緒に語り、聞き、書き、読み、一緒に悩み、一緒に笑い、一緒に泣く中で教えられたことは山ほどある。
一例として、最近地方住民として特に気になっているのは、大きな家屋敷と多くの農地と山林を残された農家の老夫婦の先行きである。大きな家の管理もできず、農作業も山仕事もできない。子どもらは都会で生活し、田舎には戻らない。人生100年時代となって、この先は長い。
相続放棄を希望する婦人に蓄えがあれば、経済的に何とかなるが、なければどうするか心配となる。生活保護を受けるためには、遺産の存在は障害とならないかなどという疑問は湧く。カネがあっても、身の回りは誰がみるかとしいう問題もある。墓は誰が管理してくれるのかなどという悩みもある。
このような問題は、国や地方が心配すればよい、という考えもあろう。しかし地方弁護士は、このように婦人の不安に寄り添い、国や地方に提言してやることは、地方弁護士の社会的使命ではなかろうかという思いが湧いてくる。国や地方は、このような弱い立場の人を救うように最善の努力を尽くしているとは思うが、地方弁護士として、このような婦人の悩み事を聞いていると、国や地方に提言した方がよいと思えることもある。
そういうことをするのも、地方弁護士の社会的使命だと思うことが少なくない。地方弁護士は多くの事件に関与し、知識だけではなく、知恵がある。その知恵を地方住民のために役立てたい。
最近は、高齢化社会となり、老人だけで生活している地方住民が多い。老人だけの生活には、支援が必要ではないかという思いも湧いている。弁護士経験を活かして、老人生活に役立つ方法はないか、という思いが強くなっている昨今である。
そんな考え方から生まれたのか、「人生は、いまの一瞬を、まわりの人といっしょに、楽しみ尽くすのみ」という「田舎弁護士の哲学」、詰めて「いなべんの哲学」だ。「いなべんの哲学」に関する本は、既に20巻を超えて発行した。高齢者となり、死が現実のものとなっている老人や、大病をしている人やその家族からは、「共鳴する」、「生きる勇気をもらった」などという言葉を多くもらっている。老馬の智で住民の人生の道案内をしたい。
〈生き方の知恵が身に付いてくる地方弁護士〉
地方住民と関係していると、生き方につき、相談を受けることも少なくない。それに応じて一緒に悩み、泣き、笑うことが、地方弁護士のやり甲斐であり、生き甲斐である。商売面では苦しくとも、このやり甲斐が今日まで地方弁護士を続けさせてくれた。地方弁護士には、地域住民と一緒に悩み、泣き、笑うという人生で最も大事なことを仕事としてできるところに、他の仕事にはないやり甲斐がある。
歳を重ねる毎に、法律に関する情報よりも生き方に関する相談の方が多くなっている。地方弁護士は毎日多くの人から相談を受け、一緒に悩み考えているうちに、生き方の知恵が身に付いてくる。この知恵が地方弁護士の老馬の智である。
地方弁護士となって、商売面では稼げる弁護士という目標は達成できなかったが、多くの人と会い、一緒に悩み、泣き、笑い、人生を楽しんできたという面においては満足している。地方弁護士の社会的使命の一面は、果たしてきたと自負している。
「人権を守る」と言い続けてきたが、改めて人権とは何だろうか、と考えた場合、分かりやすいのは、「幸せな一生を送りたいという一人一人の願い」と考えるのが良いように思える。その一人一人の幸せな一生を送りたいとの願いが果たせるかどうかは、最後はその人の生き方、人生に対する考え方によって決まる気がする。つまの、その人の考え方であり、心の持ち方である。
人生を重ね、「老馬」となったら、老馬の智で、考え方、心の持ち方はどうあるべきかを教えてあげることができれば、最高である。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』から一部抜粋)
「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~26巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
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