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 内閣官房が2027年度予算の概算要求で、内閣広報室の経費として、26年度予算7億円の10倍超となる72億円を求めていることに、ネット上などで反発が出ている。大方、政権の宣伝にここまで投入されることへの強い違和感を示すものだが、「税金の無駄遣い」の一言では片付けられない問題をはらんでいるようにとれる。

 若い世代を中心にネットによる情報収集が浸透する中、幅広い世代へ的確で効果的な発信を実施。要求額の大部分である65億円は、伝わりやすい広報コンテンツの作成や多彩な動画の制作・発信体制の強化に宛てられる、という。

 一方、官邸周辺の現在に目を移すと、高市政権の支持率が下降フェーズにある渦中、高市首相自身は連日SNSに投稿を続け、ある週末の3日間だけで11回もの投稿があった、という報道もある。

 支持率が下がる中、首相個人のネットへの発信は止まらない。この属人的な発信の強度と歩調をあわせるように、内閣官房という組織の側も、発信体制を10倍の予算で拡張しようとしている。個人と組織の両輪が、同じ方向を向いている。この現実を、単に危機感の表れだけで片付けてよいものだろうか。

 高市政権にみられる特徴は、批判や疑惑に関する国民に対する説明を、形式的にすら経由しないところにある。国民の批判が届いていないのではなく、批判に向き合い、説明する必要そのものが、政権側で意味を失っているようにみえるのだ。72億円の予算は、この「路線」へのインフラ投資として読み替えることができてしまう。

 検証や反論を経由せず、いわばそれを度外視して、国民に主張が届く回路として、公式SNSや動画量産を強化する。無論、そこに流れる情報は、批判にさらされて磨かれることもなく、その必要性も前提とされていない。一方通行で届くほど、発信者側の目的が達成される、とみていておかしくない。

 しかも、これは支持率低下への危機感から、その回復を念頭に置いているとも言い難い。政権がおそらく見切っているのは、国民全体へのアピールではなく、一定の熱量を持つ層との接触頻度を握り続けることで乗り切れるというものではないか。つまり、支持率が下降フェーズにあっても、こちらの発信を受け止め、拡散し、応援するクラスタの熱量は、別の理屈で動くと。いわば、支持率に直結しなくても、「機能する」発信をこの予算要求で、固定化することを目指していないか。

 これこそ以前にも触れた、高市政権で起きている現象、つまり否定的な情報が積み上がっても、支持の構造自体は揺るがない現象に、分かりやすく繋がって見えるのである。

 検証、批判を経ない発信が、なぜ、ここまで抵抗なく、おそらくかなりの数の大衆に受け止められているのか。一つには、いわゆるオールドメディアへの批判もあるだろう。偏向報道、切り取り、ためにする論調に対する批判には、いまや一定の説得力をもってしまう土壌が存在するといわなければならない。

 ただ、問題は、そこに「正当な」不信があったとしても、それがいつの間にか短絡化していってしまうことだ。「編集されていない」ことが「真実に近い」ことと同一視されてしまう現実。検証や裏取りという手続きが、いつしか歪曲や隠蔽の操作として疑われる対象となり、その手続きを経ない発信が、たとえ言いっぱなしでも、「ナマの声」としてむしろ誠実なものとして捉えられてしまう。

 説明責任の回避を企図する政権側は、この土壌に早くから注目し、いわば味をしめているのではないか。検証されない言いっぱなしの一方的な発信への批判が来ても、「ほらまたオールドメディアが」「また偏った頭の批判者が叩いている」というあらかじめ用意した「物語」に回収する。そして、これは支持層にはプラスの評価軸として機能する――。

 私たちは今、次の点にこだわるべきではないだろうか。一つは、この予算が目指しているのが、「広報」というよりも、実質的な一方通行の発信の増強であること。つまりは国民の声を聞き、政策に反映する回路への予算とは言いがたい現実。そして、ここで求められている「分かりやすさ」「伝わりやすさ」は、検証や反論を経由しない伝播力の追求であること。そして、さらに加えれば、既存メディアの検証機能が相対的に弱まっているなかで、この量産体制に対抗する回路が、国民の側に十分に用意されていないこと、である。

 乗せられる国民が悪い、という以前に、乗らざるを得ない情報環境そのものを、政権が予算をかけて構築しつつある。この構造を可視化できるのか、そして受信者としてではなく、検証と反論の主体として情報に向き合う構えをどう取り戻せるのか。72億円という数字は、そのことを私たちに突きつけているように思える。



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