〈紛争決着に止まらぬ関係修復への思い〉
地方弁護士事務所に相談に来るクライアントは、「もう関係修復など望まず、法的手段を使って決着を付けたい」という人が多い。そこまで紛争がこじれて面倒な状態となっている。紛争を解決するというより、紛争を取りあえず法的に片付けてしまいたいという人が圧倒的に多い。真に紛争を解決し、関係を修復するところまでは望んでいない人が多い。もう疲れ切り、早くケリを付けたいという人が多い。
法的には決着が付いても、関係は修復どころか、悪化することが分かっていて、もう付き合いはしないと決めている人が多い。関係修復どころか、断絶することを望んでいると思えるクライアントが、地方弁護士事務所に来ることが多い。
したがって地方弁護士は、法的に決着を付けてやれば、役割を果たすことになり、それ以上紛争を真に解決してやる役割までは果たす必要がない、という考え方もある。地方弁護士が取り扱う紛争は、そういうものが多い。
これまで法律的知識な基づき、クライアントの代理人となって喧嘩犬のような闘争に明け暮れてきた身である地方弁護士には、法律に基づき取りあえず紛争に決着を付けてやるだけで、真に紛争を解決してやる能力などない。少なくともこれまでの自分は、そうであった。
裁判官にも、そう言えそうな人が多くいそうである。地方住民もそれを知っていて、地方弁護士や裁判官にそこまで期待していない。紛争を真に解決して欲しいとまでは望まないで、早く紛争にケリを付けて欲しいというだけの人が多いように見受けられる。
しかしお節介焼きの身としては、親子、兄弟などの特に身近で大事な人間同士の紛争については、紛争を解消し、関係修復を図ってやりたいという気持ちが湧いてくる。歳を重ねるにつれて、そういう思いが強くなってきた。できることなら人間関係がそこまでこじれる前に仲に入って、紛争の種を取り除いてやりたいという思い上がった夢が湧いてくる。
医師は患者を治癒させるために働いている。医師の仕事は、患者の身体を修復させる。紛争に決着を付けるだけで、関係修復をさせないのであれば、地方弁護士や裁判官の仕事は、医師の仕事というより、葬儀を出す和尚や葬儀屋のような仕事となってしまう。これまでのところでは、そういう傾向が強い。
高齢者となるに従って、関係が悪化する前に、紛争となりそうな問題を円満に解決してやりたいという思いも湧いて来ている。紛争に決着を付けるという前に、未然に防止してやりたいという思いも湧いてくる。紛争となっても、関係を修復してやりたいという思いが強くなってきている。
身の程を知らない望みのような気もするが、そういう思いは最近強くなっている。地方弁護士は、紛争に決着を付けるだけに止まらないで、紛争となった関係の修復をしてやりたい。紛争とならないようにしてやりたいという思いが湧いてくる。それは地方弁護士の仕事ではない、という考え方が常識的であり、これまでの地方弁護士業の実態を見れば、その方が正論だと思うが、私個人としては、地方弁護士を続ける以上、地方住民にそういう手を差し伸べたいという思いが湧き、これからもそうしたいと思っている。
〈法律より高い次元で解決するための知恵〉
地方弁護士が、地方住民の紛争を本当に解決してやるためには、法律の条文と判例と法律理論に関する知識だけでは足りない場合が出てくる。法律と裁判によって、紛争に一応の決着が付けられても、真の紛争解決をすることは出来ない。紛争を真に解決するためには、もと高い次元の知恵が不可欠となる。地方弁護士が紛争に決着を付けるだけでなく、地方住民の紛争を真に解決する仕事を全うできるようになるためには、法律の条文と判例と法律理論に関する知識を切り売りするだけでは足りず、もっと次元の高い知恵が必要となる。
医療と比べてエビデンスが希薄で、自然科学的説明が困難な紛争解決には、常識とか人情とか人の心を読み取る力など人間総合力で形成される知恵という高い次元の秤を使って統合を目指す他はない。法という秤で、裁判で、紛争に決着を付けた場合、相続事件などでは、この世で最も身近な関係の親子関係や、兄弟関係が断絶することになる。真に紛争を解決させるためには、担当する弁護士は、知恵で紛争の当事者の心を融和させなければならない。
紛争を解決させ、壊れかけている仲を戻すためには、弁護士が関係者の心を歩み寄らせなければならない。心の歩み寄りを実現するには、地方弁護士には法律の知識だけでは足りず、知恵が不可欠になる。知恵とは、物事の道理を弁え、正しく判断したり、適切に処理したりする能力であるが、この知恵によって、互いに自分の主張が正しく、相手の主張はこれに反しているので納得できないということで、紛争になっている当事者の主張を法律より高い次元の生き方の問題として、哲学の問題として捉えて統合できれば、「正・反・合」となり、弁証法という哲学的思考方法で紛争は真に解決することができる。
人間の心ほど分かり難く、理解に苦しむ問題はない。こちらの思いと、相手の思いが全く違っていることなど日常茶飯で、いつも身を以て体験している。心の問題に踏み込むことには、さすがに躊躇する。ためらってしまう。
身の程を弁えず、地方弁護士はこのような心の持ち方をすれば、知恵が付き、地方住民の紛争を真に解決してやれるのではないか、という思い付きが湧いてくることもあり、その思い付きをここで述べてみたい。的外れと思われる点が多いと思うが、考えるきっかけにして欲しい。
(拙著「地方弁護士の役割と在り方」『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵で統合を――』から一部抜粋)
「地方弁護士の役割と在り方」『第1巻 地方弁護士の商売――必要悪から必要不可欠な存在へ――』『第2巻 地方弁護士の社会的使命――人命と人権を擁護する――』『第3巻 地方弁護士の心の持ち方――知恵と統合を』(いずれも本体1500円+税)、「福島原発事故と老人の死――損害賠償請求事件記録」(本体1000円+税)、都会の弁護士と田舎弁護士~破天荒弁護士といなべん」(本体2000円+税)、 「田舎弁護士の大衆法律学 新・憲法のこころ第30巻『戦争の放棄(その26) 安全保障問題」(本体500円+税)、「いなべんの哲学」第1~27巻(本体1000円+税、13巻のみ本体500円+税)も発売中!
お問い合わせは 株式会社エムジェエム出版部(TEL0191-23-8960 FAX0191-23-8950)まで。
◇千田實弁護士の本
※ご注文は下記リンクのFAX購買申込書から。