司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 平成14年法改正で、事務所の法人化と簡易裁判所の訴訟代理権が司法書士制度に認められた。大量格安登記事務の受け皿として事務所法人化が活用され、すでに大手都銀の融資センターを得意先とする大型司法書士法人がいくつも登場している。このことについて細田氏は「平成13年(2001年)に規制改革により報酬自由化になり、個々の事務所において報酬を定めることになった結果、低報酬により大量の事件を受任する事務所も現れた」と言っている。

 
 簡易裁判所の訴訟代理権については、「平成15年に簡裁代理権が付与され、多くの訴訟事件等に係ることとなった。司法書士制度にとっては歓迎すべき事柄である」と肯定的評価を加えているかに見えるが、続けて「それ以前からクレサラ事件に取り組み(宇都宮弁護士指導の民主商工会を窓口としたクレサラ被害者の会に属した司法書士等の取組み等のこと)被害者を援助していた会員や弁護士が積み重ねた判例を基に、割に簡単に過払金が取り戻せることとなり、多くの認定司法書士が過払い事件に取り組んだ」と、あらたに認定資格をとった司法書士の債務整理事件の取り組みが、彼らのおかげであったかのように言われているがそれは言い過ぎというものだ。

 
 判例の積み重ねは貸金業法、利息制限法の改正まで続いていたし、認定司法書士制度が出来るまでは、そもそも司法書士は債務整理を取扱うことが出来なかったのである。従って私のように独自に代書権を活用して自己破産、特定調停を活用し、被害者救済をする極々一部の司法書士か、上記被害者の会に参加して仕事をもらう一部の司法書士しか、サラ金被害者救済に携わる司法書士などいなかったのである。むしろクレサラ嫌い銀行好きの登記司法書士が大きな顔をしていたぐらいだ。認定司法書士制度が施行されてからも、暫くは、業者はまともな取引履歴を出して来ず、そのために文書提出命令を申し立てざるを得ない事態が普通で、取引履歴取り寄せのための認定司法書士の困難が続いた。

 
 そもそも、細田氏の言う「過払い金」などという言葉が一般化してきたのは最近数年のことである。それも最近数年のはやり言葉に過ぎない。登記シカ司法書士のねたみそねみを内に秘めたこのいやらしいはやり言葉、過払い金返還請求、カバライキン請求の一言で、認定司法書士制度に先立つ裁判司法書士15年のサラ金、ヤミ金との戦いの実体を無視し、ひとくくりに言ってしまえるのは、氏自身の貧弱な実務経験を自白していると非難されても仕方が無い。一部司法書士はこの20年間、サラ金、ヤミ金と戦いつつ、反面では、一部カルテル死守の弁護士勢力とも戦わなければならなかった。認定司法書士制度はそのような司法書士の戦いにも支えられていたことを忘れてはならない。

 
 ところで、かって、宇都宮弁護士は、司法書士への簡裁代理権付与について、最も熱心な反対論者であった。これは周知の事実である。なぜ宇都宮氏が反対したのか、被害者の会会員司法書士以外の司法書士が、大量に債務整理の世界に侵入し、弁護士から仕事を奪うだけではなく、報酬も、競争により当時弁護士の自己破産40万円が現在15万円になったように、安くなってしまうからだ。事実は、結果その通りになった。その利益を得たのは消費者、市民なのであった

 
 細田氏は言う。「過払い事件のみを扱い、債務が残る場合は放置あるいは受託しない会員が現れた。これらの会員からは、司法書士本来の役割である依頼者(被害者)を援助する真摯な姿勢は見受けられない」と決めつけるが、実際はそのような会員が何名いたのか、いるのか、総受託事件中に占める不適正事務の実際の割合はどれほどのものであったのか、細田氏は証拠に基づきこれを明らかにするべきであろう。又、司法書士制度審議会委員である細田氏にはそれを公表する義務も責任もある。この会報巻頭言での元連合会会長の言葉が、もし伝聞証拠に基づく単なる憶測を根拠にした感情的発言であったとしたら、一般会員の業務に委縮効果をもたらすばかりか、真摯に債務整理事件を扱っている司法書士に対して、その名誉を傷つけることにもなるであろう。

 
 氏はさらに続ける。「過払い以外の債務の放置、取り戻し金の説明不十分、過大報酬の受領から、依頼者から損害賠償請求訴訟が起こされた」こともあると。

 
 消費者、市民も、弁護士に対してと同様に、そのような司法書士に対しては、市民自身がどんどん遠慮なく訴えれば良いのであるし、近代国家では当然にそうすべきである。幸い訴訟代理の費用も安くなったのであるから。開かれた自由な取引が保証された競争市場では、供給側の逸脱行為を予防することは出来ない。予防するために自由な競争的取引を犠牲にすることがあっては、結局は、消費者の利益を犠牲にする事となる。弁護士規制時代のサラ金市場で多くの消費者を自殺に追い込んだように。であるから市場で生じた問題は、市場で解決すべきなのであり、強制加入団体が介入すべきでなく、委任者と受任者の当事者間の問題として、民事司法の手続きにより解決すべきである(訴訟費用も格段と安くなったのであるから・・法テラス)。さらに横領背任詐欺には刑罰法規も待っている。

 

 細田氏は、このようなことが起るのは「自己(会員)の利益追求が第一義にあり。市民に対する援助をないがしろにした結果であろう」と結論する。そうかも知れない。しかし司法書士は、取引のルールは厳格に守らねばならないが、一般に、貨幣を媒介とした取引をする者達に高尚な道徳を求めてもそれは無意味であろう(アダムスミスの時代からの真実だ)。ボランテイアではないのである。

 
 法1条、2条が示す司法書士の義務は、市場取引における正義を確保実行することであって、品位保持義務も3条業務遂行上のビジネスモラルの範囲に限定される。3条業務に全人格が支配されることはない。規制された3条業務を職業とする司法書士は、公務員ではない。国家との関係では、自由な一個の私人である。強制会である司法書士会との関係においても同様である。憲法13条の保障する権利は、強制入会制度下に置かれた司法書士においては、加入脱退の自由が認められた団体の構成員よりも、当然に、より強く尊重保護されなくてはならないのである。



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