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 〈「人類普遍の原理」としての国民主権〉

 日本国憲法は前文で、「人類普遍の原理」という言葉を使っています。分かり切った言葉のようでもありますが、私たちが普段使っているレベルの言葉で、その意味を理解してみます。

 「人類」とは、人間を他の動物から区別していう言葉(角川必携国語辞典)ということになりますが、ここでは人間と考えてよいと思います。「普遍」とは、すべてのものに当てはまること(前同)。「原理」とは、ものごとを成り立たせる根本となる決まり(前同)です。ですから、「人類普遍の原理」とは、「人間すべてに当てはまる根本となる決まり」ということになります。

 日本国憲法の前文は、「ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民がこれを享受する」と述べています。この部分は、「国民主権」と呼ばれています。日本国憲法の前文は、まず国民主権を冒頭に掲げたのです。

 そのうえで、「これは人類普遍の原理であり、この憲法は、かかる原理に基くものである」と続けています。国民主権は、「人間すべてにあてはまる根本なる決まり」ということになります。

 日本国憲法は、国民主権は人間すべてに当てはまる根本となる決まり、と述べているのですから、前述の通り、それを逆手にとって、つまりうまく利用して、国民主権の格好さえ成り立っていれば、即ち、憲法改正の手続に従いさえすれば、いかなる内容の改正も許されるという憲法改正無限界説を説く人もいるそうです。

 ですが、この考え方は表面的に過ぎ、国民主権の裏に隠れている部分を見落としています。それは、なぜ、国民主権が人類普遍の原理なのかを掘り下げていないのです。氷山の出ている部分しか見ていないのです。

 国民主権でなければ、憲法の究極の価値である「個人の尊厳」が侵害されかねないから、国民主権は、人間すべてに当てはまる根本の決まり、つまり人類普遍の原理と考えなければならない、という部分を見落としているのです。


 〈国民主権の真の存在意義〉

 国民主権は、個人の尊厳を実現する手段であって、目的でありません。国民主権の形が成り立っていれば、個人の尊厳が侵されてもよいという考えは、目的と手段とを混同し、本末転倒しているのです。多数決で何でも決められるという考え方は、国民主権という制度が、個人の尊重を実現する手段であるという国民主権の真の存在意義を見落としているのです。

 このような考え方をする方は、憲法前文が、「そもそも国政は、国民の厳粛な信託によるものであつて、その権威は国民に由来し、その権力は国民の代表者がこれを行使し、その福利は国民が享受する」と明言し、「われわれとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し」と述べている部分を見落としているのです。

 単に、国民主権の部分だけを取り上げ、国民主権主義がなぜ大事なのかを見ていないのです。このなぜが大事なのです。国民主権主義は、戦争放棄と基本的人権の保障のための制度なのです。

 国民主権主義は、基本的人権の確保と、戦争放棄のために創り出されたシステム(制度)なのです。その目的は、基本的人権の保障と戦争放棄であり、国民主権はその手段なのです。そして、基本的人権の確保と戦争の放棄とは、個人の尊厳を確保するために不可欠なのです。

 このように、日本国憲法の三大原則と呼ばれる、①国民主権と、②基本的人権の保障と、③戦争放棄は、個人の尊厳を守るという最終目的に向かって、鎖の如く連結しているのです。

 国民主権だから、国民の多数決を以ってするなら、どのようにでも憲法を改正できるとする憲法改正無限界説は目的と手段を混同し、本末転倒した考え方であり、到底賛同できません。どんな多数の人の賛成を得たとしても、たとえ一人の人間であっても、その人命や基本的人権を合理的な理由なくして奪ったり、侵害したりすることは許されないのです。

 選挙で大勝したから、その政権担当者は多数決で何でもできるなどという考え方が間違っていることは、誰だって分かります。たとえ、国会の3分の2以上の賛成を得た上、国民の多数が賛成しても、憲法の基本原則は変えられないのです。立憲主義とはそういうことを言うのだと思います。憲法の基本原則を変えては、その憲法は成り立たないのです。そこに、憲法改正の限界があるのです。

  (拙著「新・憲法の心 第25巻 国民の権利及び義務〈その2〉」から一部抜粋)


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