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 〈東弁会長声明の善意解釈〉

 一小判決の控訴審事実審査の有り方に関する判示、またそれが裁判員制度の導入を契機としてより徹底されるべきであるとの判示は、今回は、たまたま被告人に有利に働いたけれども、多くの場合は被告人の不服審査の機会を狭め、被告人に不利に働く危険性が大きく、この一小判決は大久保元判事も説くように刑事三審制を崩壊させるだけではなく、刑事裁判の根本を揺るがしかねない危険がある。

 問題は、刑事控訴審の事実審査基準について、従来の審査基準を変更してまで裁判員制度を維持存続させたいという最高裁判所の姿勢である。そのもたらすものは刑事訴訟法1条の上位に裁判員法を置くことであり、それは刑事裁判そのものを覆滅させることにつながる。

 東京弁護士会会長は、一小判決について昨年2月23日「本件最高裁判決が本件控訴審判決の誤りを正したことは、直接主義・口頭主義を徹底し、刑事訴訟における無罪推定原則に忠実におこなわれた第一審裁判員裁判の判断を尊重する姿勢を最高裁が示したものというべきであり、その意義を評価する」との声明を発した。

 この声明は、裁判員制度維持尊重の立場に立ち、一小判決の判示していない「無罪推定原則に忠実」との表現を敢えて用いているばかりではなく、裁判員裁判における直接主義・口頭主義の実質にも配慮しない誤った意見と評さざるをえない。

 この声明は、上記の意見に引き続いて、第一審が有罪判決を出した場合に言及し、「控訴審は検察官の立証が合理的な疑いを差し挟む余地がない程度に尽くされているのかどうかをあらためて吟味しなければならない。・・・本件最高裁判決は、そのような場合にも控訴審が第一審判決を尊重すればよいという考えを示したものとは解されない」と述べる。

 一小判決が、第一審が有罪判決を出した場合は、今回この一小判決が打ち出した刑訴法382条の解釈とは異なる解釈をとるべきである或いはとることになるなどと一体どこで述べているであろうか。この会長声明は、本件一小判決の打ち出した解釈について、何の根拠もなく、一小判決に対し独自の制限的解釈を施し、つまり善解して、この一小判決を援護射撃しようとしているものであり、何とも理解し難いものである。

 〈無言の重圧〉

 この一小判決に接した原審東京高裁の裁判官は、この判決についていかなる感想をもったであろうか、期待し得ることではないが腹蔵なく話して貰いたい思いがある。一小判決の説くところは尤もだと納得したであろうか。この一小判決が、今後控訴審裁判官が良心に従った裁判をしようとする場合に無言の重圧となることが懸念される。そのことが恐ろしい。

 裁判員裁判の弊害は、公判前整理手続きにおける実質非公開性、その手続に長期間を要することによる事件の滞留、被告人の身柄拘束の長期化、起訴状一本主義の形骸化、証拠提出制限による立証活動の不十分さ、裁判員の便益のみを考えた拙速、被告人軽視等々挙げればきりがないほどあり、それによって刑事裁判はあるべき姿からどんどんかけ離れて行っている。

 昨年7月30日大阪地裁(裁判員裁判)が、姉を刺殺した42歳の被告人(男性)に対し求刑の懲役16年をはるかに上まわる懲役20年を言い渡したことが大きく報道された。被告人はアスペルガー症候群の障害のある者であるが、裁判所は内省のないまま社会復帰させることの危険性を量刑理由に挙げたと聞く。

 そうとすれば、裁判の本質である理性を欠いたポピュリズムそのものではないか。裁判員に対する、精神に障害のあるいわば社会的弱者である被告人の人権よりも社会秩序の維持・強化を優先させる方向への意識の強化策として、裁判員制度は見事に機能を果たしたことの典型と言えるのではなかろうか。裁判員制度の議論において当初から懸念されていた感情優先の重罰化が現実化したとも評し得る。

 この一小判決の展開する議論は、これらの裁判員裁判の生起する諸問題にとどめを刺すほどの重みがある。

 世上、裁判内容に国民の健全な社会常識を反映させることが裁判員制度の目的であるかのように言われるが(司法制度改革審議会意見書Ⅳ、第1、1など)、それは夢物語か、国民を裁判員制度に参加させるための詐術的表現である。裁判員を裁判に参加させることは、そのような目的のためではなく、国民を国家の行為に駆り出し、治安維持のための訓練をさせること以外には考えられない(法律のひろば2005年6月号司法制度改革推進本部事務局長山崎潮氏(故人)発言等、拙稿「裁判員制度の危険性」週刊法律新聞1812号)。裁判員制度に賛成し、推進しようとする立場は、その裁判員制度の真の狙いを容認するということである。

 刑事裁判を崩壊させるだけの効果しかない裁判員裁判は即刻廃止さるべきであると改めて確信をもって言える。=このシリーズ終わり



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