司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈最高裁は憲法裁ではない、に反する姿勢〉

 

 前記大法廷判決事件の弁護人は、原審では憲法80条、76条1、2項違反のみを主張し、原審も当然のことながらその点のみについて判断している。上告事件担 当の検察官の答弁書もその点のみについて答弁している。最高裁大法廷昭和39年11月18日決定(刑集18巻9号p597)は、「原審(控訴審)で主張判 断を経なかった事項に関し当審(上告審)において新たに違憲をいう主張は、適法な上告理由にならない」旨判示している。その判示からすれば、原審の判断し ていない事項、上告人が明示した点以外の主張は、もともと上告理由にはならす、判断を要しないこととなろう。

 

 また、この福島判決の論理からすれば、上告審では「原判決は憲法違反だ」と言ってさえおけば、最高裁は独自に違憲の疑いのあると思われる論点を拾い上げて全 て合憲判断を示すことができることになる。これは、違憲法令審査権が具体的紛争解決のためにのみなされるものとの最高裁大法廷の判決(昭和27年10月8 日民集6巻9号p783)、つまり最高裁は憲法裁判所ではないとの判決に反することになろう。

 
 なお、職業選択の自由の判断について、判決は裁判員の仕事は職業ではないというが、裁判員は特別職公務員という立派な社会的仕事であり職業であることは明 らかであり、国民は短期・長期、有償・無償を問わず公務員という職業につくことを強制されるいわれはないこと、また、現在従事している職業を一時的にせよ 強制的に離れさせられることからすれば、職業選択の自由の侵害であることは明らかであり、その判断もまた誤りである。

 

 

 〈逆に司法の信頼は失墜〉

 

 以上、福島地裁判決についてかなり大まかな批判をして来たけれども、一言でこの判決を評すれば、憲法76条3項に定める裁判官の独立を放棄した、余りにも粗雑な論理による国策追従、国民の基本的人権無視の判決ということに尽きる。

 
 仮に、ある会社が従業員に対し、命令に背いたら解雇だ、停職だといって脅して、本来の職務以外のことを強制的にやらせたら、現在の社会はその会社の行為に対 しどのような評価を下すだろうか。ましてその従業員がそのために精神的におかしくなったらどうだろうか。それはパワーハラスメントだと評されてその会社は 社会的に糾弾されるだけではなく、多額の損害賠償義務を負うことになろう。

 
 契約関係にあることにより、ある程度の負担を承認した者の間においてさえそうであるのに、国家として最大の尊重をしなければならない主権者である一般国民 に対し、国家がその権力の行使として制裁を課して無理に国家行為に加担させることは、国家による国民に対するパワーハラスメント以外の何ものでもあるまい。

 
 裁判所の職責は、本来憲法の番人として多数者による少数者に対 する不当な権利侵害から少数者を守るところにあり、仮にその任務を放棄したかかる判決が承認されるならば、裁判員法が謳う司法に対する「国民の信頼の向 上」はおろか、その信頼の失墜に資することになることは明らかである。

 
 私らは、事情があって控訴審からは離れることになった。しかし、新しく就任された控訴代理人も憲法問題は引き続き取り上げて行かれるご意向と窺っているので、控訴審で奮闘され、依頼者のご意向が実現されることを強く期待している。



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