〈はじめに〉
今年5月21日の新聞各紙に、久しぶりで裁判員制度に関する記事が載った。朝日新聞の見出しは「裁判員の辞退者増64%・審理長期化が影響―最高裁調査」とあり、私の地元の河北新報では「冷める関心―出席率低下―審理長期化、雇用情勢変化が影響―最高裁報告書」とあった。時事通信のネット配信記事も同様であった。その丁度1年前(2016年5月21日)の朝日新聞には「裁判員候補者4割が無断欠席―制度スタート7年―最高裁が対策検討へ」という題の記事が掲載されていた。
昨年6月22日NHKの「視点・論点」という番組で、2015年の同番組に引き続いて裁判員制度を推進する国学院大学四宮啓教授が「裁判員制度・国民の参加を促すには」と題して、辞退率が年々上昇して65%を超え、欠席率も40%に達しているとの現実を紹介したうえ、国民参加を促す改善策として、裁判員経験者の良い体験を共有させることが必要であり、そのためには裁判員の守秘義務のあり方を変える必要があると独自の説を展開している。
本稿は、最高裁が裁判員辞退率の上昇・出席率低下の原因分析作業を㈱NTTデータ経営研究所に依頼したことについて検討するものである。以下では辞退率・出席率を合わせて「参加率」と略称する。
〈調査の手法〉
調査は、先ず、2009年から2015年までの辞退率(選定された裁判員候補者数に対する、辞退が認められた裁判員候補者の総数の割合)、出席率(選任手続期日に出席を求められた裁判員候補者数のうち、現実に選任手続期日に出席した裁判員候補者数の割合)の推移を図表と数値で示し辞退率は年々上昇し、出席率は年々低下していると指摘したうえ、その要因として5つの仮説を立て、過去に行った最高裁の調査データに独自のアンケート調査結果等を踏まえて分析し、仮説と結果との相関関係の有無やその程度について見解を示すという手法をとっている。
調査の手法として立てられた仮説
立てられた仮説は以下の5項目である。
① 審理予定日数の増加傾向
② 雇用情勢の変化
③ 高齢化の進展
④ 国民の関心の低下
⑤ 名簿規模の縮小に伴う年間名簿使用率の上昇
四宮教授が繰り返し述べている守秘義務に関することは、仮説には取り上げられていない。あげられた仮説は、いずれも現制度には手を付けない内容のもの、つまり制度自体の存否に関わる事項や制度の手直しを要する事項ではない。制度に手を付けたり、それについて意見を述べたり出来ない制度運営者側による調査であればやむを得ないことなのかもしれないが。
〈仮説についての結果〉
今回の調査における前記の参加率低下の原因に関する仮説について、調査会社の判断はいかなるものであったか。「①審理予定日数の増加傾向とは『弱い相関』がある。②雇用情勢の変化とは『強い相関』がある。③高齢化の進展とも『強い相関』がある。④国民の関心の低下については可能性は否定できない。⑤名簿規模の縮小に伴う年間名簿使用率の上昇とは『弱い相関』がある」というものである。