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 〈緊急事態宣言と私権の制限〉

 2020年はオリンピックイヤーと呼ばれ、東京を中心に世界のアスリートたちの夢の饗宴が繰り広げられると多くの人が思い、楽しみにしていたと思う。ところが、中国が今年1月にWHOに通知し、その後世界中に拡がった新型コロナウイルスCOVID19による感染症が人間の生命に対し極めて危険なものであることが明らかになって事態は一変した。2020年のオリンピック・パラリンピック東京開催は不可能と判断され、今のところ2021年開催に変更されてはいるものの昨今のコロナの感染拡大の勢いからすると、来年のその開催も危ぶむ声は大きい。

 我が国でも国内感染者が確認されたことにより、世界の感染状況を見て当初は国民への安全対策の周知や外出自粛の呼びかけにとどまっていたものが、4月7日に改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づいて、期間を5月6日までとする一部地域への緊急事態宣言の発令、同月16日にはその対象地域を全国に拡大し、5月4日にはその宣言の有効期間を5月31日まで延長することが定められた。その後、その期間満了を待たずに感染者数の少ない地域の解除を宣し、5月25日には全国で宣言が解除された。

 しかし、その後、またコロナ感染者が大都市を中心に増え始め、地方の感染者も増えてきて、第2次の緊急事態宣言を出すかどうか、また、都道府県単位で独自に何らかの宣言を出すかが議論され、現に一部出されている。

 我が国の緊急事態宣言は、基本的に非強制措置にとどまり、諸外国が採ったロックダウンとか、命令違反者に対して罰則を科すものとは異なる。そのことについて、第2波・第3波に備えてより強力な感染防止対策として私権の制限を伴う措置をとることが可能となる立法措置が必要だという意見も出てきているが、政府は、繰り返し現在の状況は再度緊急事態宣言を出す状況ではないと言っている。

 そればかりではなく、政府はGoToトラベルの掛け声よろしく、感染者が再び増加してきている状況の下でも、感染者が急増していた東京都を除いて国民への観光キャンペーンを展開している。

 仮に緊急事態宣言が再度出されたとしても、特措法が、国民の自由と権利への制限は最小限のものでなければならないと定めている(同法第5条)ことから、罰則の適用がある場面は極めて限られると考えられる。


 〈コロナ対策としての自粛要請〉

 我が国のコロナ対策は、基本的に国民各人の危機意識を共有して自発的に感染防止に必要な行動をとることを期待するという、いわゆる自粛効果に依拠するものとなっている。確かに、感染者、重傷者、死者のそれぞれの数値は増えつつあるけれども、欧米、ブラジル、ロシア等に比較すれば絶対数も、人口比からしてもはるかに少ない。

  その意味では、この自粛政策は一応成功しているように思われる。それは何故かについては、その良し悪しは別に、憶測として、国民間に危機意識を共有し得る素地の存在、それとかぶるが国民の国策への順応傾向、同調圧力の容認、またこのような国民性とは別に、我が国には風邪やインフルエンザの流行する時期にマスクを着用することを厭わない一種の衛生意識のあることなどが指摘されている。

 このCOVID19の再感染拡大に伴って前述のように我が国でもより強力に私権を制限し得るように法律を改正すべきだという意見もあるが、流れとしては、従来の自粛、つまり国民各自の判断に委ねる政策を継続するものとなっている。

 やはり、個人の尊厳を国是とする憲法のもとでは国民の自由、人権の制限は、なされないか、最小限のものであることに越したことはない。しかし、ことは人命にかかわることであり、現にその人命が損なわれる事態が生じていることは間違いのないことであるから、やはり綺麗ごとばかりで対処してよいかは十分に検討されなければなるまい。



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