米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移転計画をめぐり、埋め立て承認を取り消した沖縄県側の敗訴を確定させることになった、12月20日の最高裁判決によって、結果として司法はこの問題に対する沖縄の「民意」をどう扱ったことになるのだろうか。沖縄の民意とは、県民調査(2015年、朝日新聞・琉球朝日放送実施)で辺野古移設に約7割が「反対」した民意である。判決要旨を読み返すと、その扱いに納得する沖縄県民はどのくらいいるのだろうか、ということとともに、一連の判決のなかで、司法には沖縄の現実の何が目に映っていたのか、という疑問にどうしても思いがいってしまう。
最高裁判決の判断は、基本的には、前知事の判断にも沖縄県の審査基準にも違法な点や不合理な点もない。埋め立て承認に違法がないのに、「違法」とした現知事の取り消しは違法である、といっているに過ぎない。これを読み解くために高裁判決をみると、高裁は承認取り消しを許されないという結論を導き出した根拠として、あくまで取り消すべき公益上の必要が、取り消すことによる不利益に比べて明らかに優越しているとまでは認められない、という判断を示している。
取り消すことの不利益として、列挙したのは、「日米間の信頼関係の破壊、国際社会からの信頼喪失、本件埋立事業に費やした経費、第三者への影響」。その一方で 取り消すべき公益上の必要としては、「自然海浜を保護する必要等」を挙げながら、他方で、本件埋立事業を行う必要性=普天間飛行場の危険性の除去を肯定できるとし、「前者が後者に程度において勝ったというにすぎず、その分、取り消すべき公益上の必要が減殺される」とした。
そのうえで、高裁判決は沖縄県の自治侵害と沖縄県民の「民意」に反するとした知事の主張を、次のように退けている。
「本件埋立事業による普天間飛行場の移転は沖縄県の基地負担軽減に資するものだ。そうである以上、本件新施設等の建設に反対する民意には沿わないとしても、普天間飛行場その他の基地負担の軽減を求める民意に反するとはいえない」
今回の最高裁判決を受けた、地元の沖縄タイムスは12月21日付けの社説で、この高裁判決を引用し、「都合よく解釈した一文」と評したうえで、「新基地に反対する民意と基地負担軽減を求める民意は一つだ。民意を無視した負担軽減はあり得ない」と厳しく指摘した。「民意」を分断して、あらかじめ用意された結論に導くために、まさしく都合よく持ち出されている印象を持つ。直接の言及がなくても、最高裁判決が結果的に追認した形になったのも、この「民意」の扱いであるとされて仕方がない。
「判決後ろ盾 政府攻勢」。埋め立て工事再開を報じた28日の朝日新聞は、国が最高裁判決をよりどころに攻勢を強めているということとともに、もともと工事の中断には、司法のお墨付きを得て県の批判を封じる思惑が政権側にあったことを伝えている。今回の最高裁判決はまさにその思惑通りであり、かつ、味方を返れば、司法は結果として極めて政治的な意味をもってそれに応えた形になった。
さらに、最高裁判決にあくまで従うべきでないという翁長知事の一部支持者の声もあり、徹底抗戦の姿勢を維持しながら、承認取り消しを取り消した知事とをめぐり、反対派のなかに不協和音も生まれているとも伝えられる。最高裁判決が新たな「民意」の分断の引き金にもなりかねない。
いずれにしても、沖縄の「民意」に対する司法の姿勢の問題は、今後、長く問われることになるはずである。
社説「辺野古訴訟 最高裁判決を受けて」(沖縄タイムス)
社説「辺野古訴訟 民意を封じ込める判決」(朝日新聞)