司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>


 

 民事裁判のIT化が、にわかに現実味を帯びてきている。法制審議会は民事訴訟法の改正に向けた要綱を決定し、2月14日に法相に答申しているが、民事裁判の全面的なIT化を進める内容が含まれており、訴状のオンライン提出やウェブ会議を活用した口頭弁論などが、取り沙汰されている。

 当然のことながら、IT化への期待と注目は、一も二もなく、利便性にあるといっていい。コロナ禍で開廷不可能に陥った教訓も、この方向を後押しするものになっている。利用者からすれば、あるいは一見して、いいことずくめという話にとらえられるかもしれない。

 しかし、利便性ありき、となれば、落とし穴を見落とすことにもなりかねない。いうまでもなく、問題はいかに公正・公平な裁判が担保できるかである。それは、裁判官の心証にかかわるものと、当事者の参加にかかわるものが考えられる。前者は、ウェブ経由のやりとりが、これまでの裁判と同様の公正・公正さをもたらすのかといったことであり、後者はIT化への熟練度の違いや、適正なサポート体制の問題になる。

 とりわけ、その本人訴訟のサポート役として期待され出している弁護士の中から、そのかかわり方をめぐる懸念の声が出始めている。弁護士がどういうかかわり方を期待されてしまうかによって、またぞろ弁護士の業務が採算性を含めて圧迫されるおそれがあるからだ。

 そもそもIT化によるサポートが、IT化による手続の技術的なアドバイスなのか、法律相談を含めた法的アドバイスを含むのか(ITサポートとは法律事務か)によって話が変わってくる。前者の場合、考え方によっては、必ずしも弁護士でなくてもいいのではないか、という話になるし、後者の場合、本人訴訟へのアドバイスと、弁護を受任した場合のアドバイスとの間に、どういう差が設けられていいのかということが、採算面からも問題になる。

 この両者があいまいな場合、いわゆる非弁の関与を弁護士としては警戒しなければならなくなる。一方、後者の状況は、当然、本人訴訟でも当事者が100%のアドバイスを期待する結果になれば、弁護士との間で、トラブルにもなるし、それこそ採算性は課題になってくる。当事者は、手続きの技術ではなく、当然、法的な中身にかかわるアドバイスを求めてくることも考えられるからだ。

 弁護士を不安にさせているのは、既に弁護士会主導層が、この問題に対して、やや前のめりになっているということだ。日弁連は既に2019年9月、「民事裁判手続のIT化における本人サポートに関する基本方針」をまとめ、「裁判を受ける権利」の実質的に保障という観点から、IT化で必要なサポートを提供することを、宣言している。また、最近は、この関与を業務拡大として、積極的に位置付ける傾向も現れている。

 しかし、前記したような、今後求められてくる弁護士のかかわり方次第では、業務拡大どころか、業務を圧迫する役割を抱え込むことにもなりかねない。技術的なサポートであるならば、あくまで裁判所が主体的にやるべきで、それを弁護士が腹を痛める形で背負い込むことになるのではないか、とする懸念の声も聞かれる。

 法テラス(日本司法支援センター)の報酬への不満があるなか、とかく「べき」論が先行して、具体的にそれを支えることになる弁護士の経済的事情や持続可能性が前提条件として踏まえられない弁護士会の姿勢への批判もあり、IT化サポートへの今後への不安が徐々に高まっている観もある。

  社会が期待し、「べき」論でそれに答えるような流れが固まる前に、前提条件をきちっと提示し、「できないものはできない」ということまで明確にしなければ、司法改革同様、のちのち無理のしわ寄せが露呈するだけということを、今、押さえなければならない時である。



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