「政治とカネ」という表現が、この国で言われ出してひさしいが、自民党政治家と国民の問題意識は、依然として同じ方向を向いていない。提出された自民党の政治資金規正法改正案とそれをめぐる同党の姿勢は、改めてそのことを示すことになった。
業者と政治家の癒着、国庫からの多額の支給と使途の不明瞭さなどが、国民の政治不信の根源になっている現実に対し、当然、国民も政治家も、基本的にそれをなんとか解消しようとするベクトルで考える、と言う前提を、この言葉で共有していると多くの人は思っているかもしれない。
しかし、今回の改正案への姿勢で透ける自民党政治家の本音は、真逆に見える。「政治とカネ」の関係をなんとか維持できないか、そのことに腐心する姿を見せつけられている思いがするのだ。派閥裏金問題に端を発し、近年にないほどの国民からの逆風にさらされながら、なお、この批判をかいくぐっても、関係を維持したいという、強い思いを見てしまう。
パーティー券購入者の氏名公開基準を現行の20万円から10万円に引き下げ、廃止を言う声にも、与党・公明党の5万円に引き下げる提案にすら耳を貸さない。「政策活動費」は、相変わらず訳の詳細が分からない形。この機会に徹底的な規制を加えることにも、国民の目にさらされる透明化にも、ある意味、堂々と背を向けているというしかない。
「『自民党よ、そこまでして、カネが欲しいのか!?』と思わざるを得ないところであるが、この自民党の態度には、ただ単に『カネが欲しい』という自民党の“セコい”心情を明示しているだけでなく、政治資金パーティーによって、日本国家の国益を激しく棄損する極めて深刻な『贈賄罪』が横行してしまっている状況があるという実態を明らかに指し示しているのだ」
「というよりむしろ、この裏金問題における最大の問題は、自民党のカネについての意地汚さの問題と言うよりもむしろ、この『贈収賄』がパーティーの機会を使って合法的に行われるという腐敗状況が蔓延している点にこそあるのだ」(藤井聡・京都大学大学院教授、MAG2NEWS )
「裏金問題では、カネをかけないと選挙に勝てない、パーティー券をたくさん買う企業の声に耳を傾けているのではないかといった利権政治の一端が明らかになった。裏を返せば、パーティー券を買えない人の声は聞かないということになる」(社会企業家・石山アンジュ氏、5月18日付け朝日新聞 )
信頼回復などと口にしながら、彼らがその裏で必死に守ろうとしているものは、わが国の国民にとって、相当深刻なものである。逆にいえば、それを百も承知で、それでもなんとかしよう、なんとかできると考えているようにみえる、彼らの国民軽視と侮蔑の度合いも、相当深刻なものといわなければならない。
しかし、問題なのは政治家だけともいえない。前記パーティーがつなぐ関係には、当然にこういう形で便宜を図ってもらうことを期待して、おカネを出す企業が存在し、いわばこの関係を支えている。彼らが存在していればこそ、政治家側はそれを続けようとする、ともいえる。
そして、いうまでもなく、これからもこの関係を維持いようとする政治家たちを許し、結果的に当選させてしまうのであれば、私たち有権者もまた、責任の一端を負うことになる。彼らが、堂々とこうした法案を提出している姿勢をみれば、今のところ、彼らはこの線でこの問題が収束することを期待し、あるいはそう読んでいる、ということもできる。
残念だが、やはり彼らのこの問題に取り組む努力や姿勢を語る言葉は、額面通り受け取るわけにはいかない。いや、彼らの取り繕おうとする姿勢に対する、我々の厳しい視線こそが、彼らの信頼回復ではなく、この国を正常化するための、最後の砦というべきかもしれない。