司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 〈死刑を容認する国家〉

 

 法律で死刑制度を認めている以上、改めてその是認の根拠を述べる必要はないというのかどうかは分からないが、社説は、死刑を、改めてその是認の根拠を明示することなく、一応是認することを当然の前提に論じている。

 

 社説は先進国で死刑を存置しているのはアメリカと日本だけという。日本が制度として死刑を存置し執行している国であることは明らかだが、アメリカについては州によって異なるのであり、アメリカが死刑存置国だと決めつけることは正しくはなく、「アメリカの一部州」とでも表現すべきであったであろう。

 

 つまり、先進国の中で死刑制度を存置し、死刑を宣告し、執行している国家は我が国だけだということを先ず確認しなければならない。

 

 

 〈死刑と情報公開〉

 

 かかる究極の刑罰である死刑に対し、執行する刑務官らにのみ任せていることが国民の怠慢ででもあるかのように述べ、情報公開されれば死刑の存置を容認し得るかのようにもとれる意見は、余りにも死刑自体に対し鈍感すぎるのではないであろうか。

 

 死刑問題は、市民が死刑執行場を見学したり、刑務官の執行に立ち会ったりしなければ論じられないことではない。絞首であろうが薬殺であろうが、その対象者の人間としての存在を権力者が奪い去るものであることについての想像力を働かせれば十分である。何も、裁判員として国家権力の片棒を担がなければ判断できないものではない。

 

 また、死刑が公開か準公開か、執行の順番がどう決まるか、死刑囚がどんな気持ちで日々を送るのかを知らなければ、その制度の本質を知り得ないなどとは言えない。自分が今裁判にかけられて、拘置所に拘置され、或る日首を絞められて殺されることを想像しさえすれば済むことである。

 

 死刑の問題は、犯罪や刑罰の本質的問題としてそれを是認するか否かということである。世界の趨勢は明らかにその廃止に向っている。1989年国連総会は、一般に死刑廃止条約と呼ばれている「死刑の廃止を目指す市民的及び政治的権利に関する国際規約」(B規約)を採択した。また、B規約委員会は、2008年、我が国に対し「死刑廃止を考慮し、公衆に対し、必要があれば廃止が望ましいことを伝えるべきである。」などの勧告を行っている。

 

 

 〈死刑制度廃止の根拠〉

 

 世界死刑廃止デーを毎年10月10日と定めた死刑廃止世界連盟(本部パリ)が昨年10月10日に発表した「世界死刑廃止デー2015.10.10共同宣言」は、死刑制度の反対の根拠についてつぎのように説明している。

 

 「死刑執行が犯罪を抑止する、あるいは防止するとの主張を裏付ける証拠はない。いかなる司法制度も決して誤りから免れることはできず、それゆえ死刑判決は無実の人を死に追いやりかねない。しばしば、死刑宣告は貧しく、弱く、そして社会の隅に追いやられた人々に偏って宣告され、社会でもっとも弱い立場の人々への差別を助長する。また、死刑宣告は犯罪被害者やその家族に相応の償いも精神的救済ももたらすことがない。死刑執行は、現代の司法制度が目指すべきものとは正反対の、憎しみと暴力を増すだけである」と述べている(ノルウェイ・オフィシャルサイト・イン・ジャパン)。

 

 駐日EU代表部公式マガジンは、その点について「死刑に対するEUの根底にある考え方は明確だ。『いかなる罪を犯したとしても、すべての人間には生来尊厳が備わっており、その人格は不可侵である。人権の尊重は犯罪者を含めあらゆる人に当てはまる。』というものだ。」とし、且つ死刑の不可逆性を指摘する。さらに、最も根源的なことだが「犯罪者に刑罰を科す目的は『本人に自らの過ちを理解させ、自責の念を持たせ、その人物を更生させ、最終的には社会復帰させること』にあると考えている」と捉えている。



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