〈最高裁が全国裁判所に通知〉
今年の8月1日付読売新聞朝刊トップに、「審理で『遺体写真』」「裁判員辞退『精神負担』容認・・・選任時に説明へ」「最高裁通知」という大きな見出しが躍った。その内容は、同年7月19日に、裁判員裁判対象事件を多く抱える東京地裁の担当裁判官らが裁判員の精神的負担を軽減する方策を協議して出した対応策を、最高裁が全国の裁判所に対し参考にするよう通知したというものである。
同紙によるその対応策の要約は、公判前整理手続きの段階で「遺体の写真などが必要か吟味する、イラストなどで代替できないか検討する」、裁判員選任手続きの段階で「遺体写真などを見せることを説明する」「不安を訴える人の辞退を認めるか検討する」、審理の評議の段階で「裁判員の様子に気を配る」「辞退を勧めることも考える」、判決言渡し後の段階では「裁判員経験者の相談に応じる」「経験者同志が交流できる環境を整える」とのことであり、ウェブサイト「裁判員制度はいらないインコ」8月4日のトピックスによれば、つぎのとおりとされている。
〈公判前整理から宣告後まで「配慮」〉
1 公判前整理手続段階における配慮
遺体写真等の刺激の強い証拠については、両当事者の意見を聴取した上で、要証事実は何か、それとの関係でその証拠が真に必要不可欠なものなのか、その証拠の取調べが裁判員に過度の精神的負担を与え、適正な判断ができなくなることがないのか、代替手段の有無等も考慮しつつ採否を慎重に吟味する。
2 選任手続以前の配慮
事前質問票は裁判官が遺漏なく目を通し、精神的不安を訴えたり、その兆候が見られたりする裁判員候補者がいた場合には、必要に応じ、追加の事情聴取や個別質問における聴取事項等を検討する。
関係職員との間で裁判員候補者からの問合せに対応する際には、その不安を考慮した懇切な対応を心掛けるよう、認識の共有化を徹底する。
3 選任手続における配慮
取調べの必要性が高いと判断されたために、裁判員に重い精神的負担がかかる遺体の写真等の証拠を取り調べることを決定している場合は、オリエンテーションにおける事案の内容の説明等に付随して、そのような証拠が取り調べられる予定である旨を裁判員候補者に告げ、不安のある裁判員には個別質問を申し出ることができる機会を十分に保障するようにする。
前記の場合において、個別質問では、裁判員候補者の不安の内容を具体的に聴取し、裁判員の精神的負担に対する配慮についても丁寧に説明した上で、参加への支障があるかどうかを確認し、辞退の拒否を検討する。
4 審理、評議における配慮
裁判官は、審理、評議を通じて、裁判員の様子に十分気を配り、些細な変化を感じ取った場合でも適切に声をかけるなどして話を聞き、場合によっては辞任を申し出てもらうよう勧めることも柔軟に検討する。
裁判官は、評議において、刺激の強い証拠によって裁判員の精神が動揺し、証拠に基づく理性的な評議が阻害されていないか、ということに注意する。
5 判決宣告後の配慮
判決宣告後であっても、裁判員の精神的負担軽減は裁判官の職責であり、職員任せにせず自ら誠実に対応する。
裁判員が職務を終えるにあたり、裁判官から適切な説示を行い、裁判員の精神的負担の軽減を図る。その際、①結論は裁判員と裁判官の全員で十分な意見交換を行いながら議論を尽くして出したものであり、裁判員が一人で全ての責任を負うものではないこと、②職務を終えた後であっても、体調の不良その他不安や疑問を感じた場合にはいつでも裁判官に相談できること、③メンタルヘルスサポート窓口の案内を改めて伝えることなどが考えられる。また、守秘義務の範囲を誤解して、裁判員経験者が「親しい者にも裁判に関する話ができない」というような苦痛を感じることがないよう、守秘義務の範囲についても改めて適切な説明を行うことが考えられる。
死刑を宣告するような重大な事件では、事件の体験を共有した者同士が連帯感を持ち得るような配慮をすることが重要であり、例えば、事後に裁判官、裁判員が、一堂に会して話をする機会を設けることなども考えられる。また、裁判員等経験者から、経験者同志の交流のため他の裁判員等経験者の連絡先を知りたい旨の要望があった場合には、相手方の了解を前提に連絡先を伝える。
関係職員との間で、心身に不調を感じた裁判員等経験者から連絡があった場合には、まずは丁寧に話を聞いた上で、合議体を構成した裁判官と直接話ができるように手配するよう認識を共有化する。裁判官は、場合によっては裁判員等経験者と面談を行うなどして、裁判員の精神的負担軽減に努める。