司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 次なる闘いへの気持ちを固め、裁判所庁舎をあとにして向かった、裁判所の駐車場での出来事だった。車に乗ろうとした兄か、異変に気付いた。

 

 「あっ、なんだ、これ」

 

 驚く兄の声が響いた。兄の視線の先に目を移すと、私たちの乗ってきた車のボディに、くっきりと長い一直線の傷がつけられていた。歩きながら、車のキーで、力任せにつけたものにとれた。

 

 私には、ここは裁判所の駐車場だろう、という気持ちが湧き起こった。法に基づく公正裁きが行われるところで、こうした違法な行為が公然と行われていること自体、言い知れぬ違和感を覚えたのだ。

 

 しかし、兄はこの車の深い、強い感情がこもっているように見える傷をみて、即座に確信していた。

 

 「間違いなく、この裁判に関わったやつの仕業だ。和解に、納得のいかなかった連中が、腹いせにやりやがったに違いない」

 

 もちろん、この傷だけで犯人をそう特定することはできない。通りすがりのいたずらの被害に、たまたま私たちの車がなっただけかもしれない。しかし、兄がそう即断してしまうことにも、理由があった。

 

 ひょっとすると、大都会の人には理解されないかもしれないが、やはり私たちの闘いは、ある意味、閉ざされた地域社会での闘いだった。行政を敵に回した私たちの本人訴訟は、すぐさま地域の人々が知るところになり、弁護士でさえ、私たちの側で闘うことに尻込みするような世界だった。私たちは、その世界のムードのなかで闘ってきた。そして、そこでは兄が想像したような、非合法で理不尽で感情的な報復が、すぐにでも形になりかねないことを私たちは知っていたのである。

 

 私たちは、そういうものと対峙することを含めて、裁判外の「場外戦」と位置付けていた。確定的なことはいえなくても、兄が確信していた早速の「報復」に、私たちは呆れかえるとともに、最後の最後まで、「場外戦」が続くという、私たちの覚悟が正しかったことを、早くも思い知らされた気分だった。

 

 この裁判での闘いの続きは、町議会に持ち込まれた。町議員さんとは、しっかり打ち合わせし、事件の真相を町議会で明らかにし、傍聴席に来ている町民の方々に、真相を理解してもらうことを考えていた。行政のトップである町長が、一町民、被害者に対して、圧力をかけ、事実無根の偽証情報をを第三者に流していたことを含めて、すべて彼らがやったことを明白にすること。そして、この裁判についての町民の血税が投入されたかもしれない費用と、責任の所在を明確に追及すること――。

 

 恨みが込められたようにみえる、私たちの車につけられた深い傷からは、これから私たちがやろうと思っている新たな闘いを、その犯行の主が、既に見通しているような、そんな不気味さが伝わってきていた。



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