司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

 多くの町民が見守る中、父の事件に関する町議会での追及の火蓋は切られた。数多くの問題提起がある中で、窃盗事件をめぐる社会福祉協議会の責任が取り上げられ、この事件に強い関心と疑問を持った議員たちが、町長を直接問い詰めたのだ。

 

 最初に質疑に立ったA議員は、まず情報の問題から切り込んだ。町議に伝えられた、刑事裁判から民事裁判に至る報告内容、被害者家族の意見との食い違い、民事裁判中の経過的な内容と現実の相違――。

 

 「(被害者側の主張の)すべてが、(町側が説明してきたような)『デタラメなこと』ではなかったということではないですか?」

 

 さらにA議員は、こうたたみかけた。

 

 「報告と違う内容だったから、民事裁判では、このような結末になったんではないでしょうか?」

 

 つまり、町側の報告は、現実を自らに有利にねじ曲げた報告をして、こうした結末を想定させなかった、ということを言っているのだ。町議会に参加していた町民たちが、首を縦に振って大きくうなづくのが目に入った。改めて私たちの「本人訴訟」が町民たちの関心事になっていたことを感じた。

 

 この事件の真相をよく町民たちには、ある意味、「15万円窃盗事件」とした片付けられたはずの、父の事件が、ここまで大きくクローズアップされたかを理解できていなかった人も少なからずいたはずだった。社協の責任を含めて、すべてのこと真相を理解していた人は、小人数だったはずである。

 

 それだけに、町議会に参加していた町民にとっては、この展開は、さぞ興味深いものになったろう。刑事裁判で「一件落着」扱いされていたものが、そうではなかった、いわば町側にだまされていた。そして、町議もまた正確な情報の外に置かれた、ということなのだから。

 
 
 町長は、個人相手だと、ものすごく権力をたてに、威嚇するタイプの人物だったが、さすがにこの状況では、町民の前で素の姿は見せることができないようだった。まるで借りてきた猫のように、物静かに立っていた。

 

 こういう噂話を聞いたことがあった。ある有権者からの事件の質問があったとき、町の幹部は、こともなげにこう言い切ったというだ。

 

 「被害者が勝手に起こした裁判なんで、われわれには無関係なんです」

 

 自分たちのに責任はないとでも、言わんばかりの対応だったというが、私たちからすれば、こういう姿勢だからこそ、いたずらにも民事裁判が、高裁までいき、裁判が長引いたと言いたかった。初めから、罪を認め、謝罪し真摯に対応していれば、このような事態にならなかったとはずなのだ。 あるいは「本人訴訟」への侮蔑もあったかもしれないと思った。

 

 A議員の追及も、こうした視点に立っていた。

 

 「なぜ、事件がここまで複雑になり、2年近くもかけた争いにならないといけなくなったのか?」
 「ここまで、長引かせる意味があったのか。こんな小さな町で、お互い、対立ではなく対話はできなかったのか?」

 

 沈黙のまま、固まる町長。議場でざわざわと、小さい声で話し出す町民。「この事件って、15万円の窃盗事件のだろう。なぜなんだ?」

 

 町側が嘘を嘘で塗り固めていた、メッキがはがれいく瞬間だった。少なくとも、彼を支持していた有権者たちは、彼の言葉を鵜呑みにするしかなかったのだから。

 

 「なぜ、第一審で負けたことに対し、負けを認めず、被告を巻き込みながら、控訴までしないといけなかったのか?」

 

 質問は抗議の訴えに変わっていた。多くの支持者や、町民が見ている中、いつものような強気の発言ができない町長の姿があった。A議員は、追及の手を緩めない。

 

 「被害者家族のことは何も考えていなかったのか?本来ならば、町は、被害者の立場に立ち、守り、加害者に対して、指導する立場ではないか?」
 「社協をはじめ、役場自体の振る舞いが、被害者家族をいたぶり、事件を隠蔽し、被害者の口をだまられるために嫌がらせを繰り返したのではないか?」

 

 もはや町長の回答は、しどろもどろだった。結局、町長は「もう、この事件は示談で済んでますんで」「その話は、終わりにしましょう」と返すだけだった。



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