最終的に、C弁護士への依頼も断られ、改めて私たちは目の前の本人訴訟に向き合う決意を固めたが、高裁での争点整理手続きも、既にもう後半戦だった。気を引き締め、一審の時と同様、陳述書に対し、目を光らせる見極め作業を着々とこなしていた。
その日、争点整理の手続きは、ものの数十分で終了。次の予定日を決めるため、いつも通り裁判官は、「次回は、いつにいたしますか」と、こちらの意向を質してきた。私は、これもいつも通り、自分の仕事のスケジュールが書かれた、手帳をめくりながら、日程を確認し、こちらの希望日程を裁判官に告げた。
ところが、相手側の返答がなかなかなく、彼らの間で、なにやら話し続けている。何か様子がおかしいぞ。そう思った私は、裁判官に声をかけてみた。すると、加害者側の女性弁護士から産休に入るため、対応を早めてほしいとの言葉が返ってきたのだ。
これがどういうことなのか。わたしにとっては、とても意外だった。こういう要求がなされるのは普通のことなのか。それとも、何かここに相手の思惑があるのか。そんな疑惑が頭をもたげてしのったのだ。
もちろん、女性弁護人の置かれた立場は、理解できる。ただ、その個人的な都合で、場合によっては当事者の不利益になるような、要求はまかりとおるのか。担当弁護士としては、産休といった事情があるならば、何か支障がでないような対応を事前にするということはないのかーー。
そこで、担当裁判官へ率直に疑問をぶつけた。
「では、女性弁護士の代わりに、社協さんの担当弁護人が対応するのですか。もしくは、別の方が対応するのですか」
驚いたことに、「それはない」という即答だった。
そうなると、現実的に後半行われるであろう手続きは、相手側担当弁護士の都合によって、前倒し、短縮されたことになる。そして、それがわれわれの希望するスケジュールより優先される形になる。われわれの意見は、蚊帳の外か。
私の中で、さらに疑問が沸いた。この高裁の審理は、あくまで先方が控訴したことによるものだが、控訴の段階で、裁判の日程や時間と、出産予定を考慮することはできたのではないか。つまり、この個人的事情が裁判の支障になることは、十分予見できたではないか。裁判所が忙しいことは、百も承知している。しかしながら、われわれも弁護士なしで必死に闘っている。あまりにも理不尽じゃないか。
そしてまた、いつもの想像が頭をもたげてきてしまった。この場合、もし、私たちに弁護士がついていたら、どう対応していただろうか。おそらく、彼らのペースに合わせただろうか。反論したのだろうか。そして、私のこの疑問にどうこたえてくれたのだろうか。
結局、われわれの日程調整についての主張は認められなかった。