司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 初めての傍聴、裁判所の雰囲気にのまれたのか、心穏やかに全体を見ることはできない。傍聴席最前列の真ん中に座り、ノートとペンをギュッとにぎりしめ固唾をのんで裁判がはじまるのを待った。

 姉は緊張したらしく何度も席をたち、化粧室にいっていた。こちらは被害者、悪いことは何もしてないのになぜか、気が重く早く終わってほしい、嫌な気分だ。

 大きく深呼吸し、あたりを再度見渡す。犯人側の国選弁護士の姿があった。ずっと座っていたはずだが、全く視界に入ってこなかった。本番まで、気配を消していたのかと思うほど存在感が薄く、よく見ると若い女性弁護士だった。

 弁護士をみて、当然、犯人に不利な証言は避けさせるアドバイスはやっている、と、ふと思った。

 取り調べ中、捜査当局は「数百万円単位で、やられていますね」と言っていた。この事件は、一人暮らしの老人が長期間、常習的に介護ヘルパーのカモにされていたという事実とその連続性の証明でなければならなかった。しかし、15万円の窃盗 1件の窃盗のみ事件とされ、報道された。

 この弁護士が事件の真相を歪めさせたのか? 何か裏取引があったのか? 被害者家族は警察の捜査に協力を求められるため、捜査上の情報を共有できる部分もあるが、その後、情報は途切れ、被害者は蚊帳の外に置かれる。

 私がこういう疑念を持ったのは、それなりの理由がある。この事件のヘルパーは、全国で最も名前が知られている半官半民の社会福祉法人が関係している。ここで多くの余罪が認められれば、当然、全国の老人介護行政への社会不信に繋がる可能性がある。既に事件のフレームは真実から遠い1回の窃盗事件として扱われている。法廷は、真相究明の場であるべきだが、政治的圧力が司法に関与してくるのではないのか、と考えたのだ。

 そのような視点から、私はこの第一公判のなりゆきを見ていこうと心に決めていた。

 被告人に対する質問が終わると、検察官による起訴状の朗読が始まった。何やら手元にある紙を読み上げているが、もごもごと口ごもっていて、必死に聞こうとするが何を言っているのかさっぱり分からないので、メモもとれない。裁判官には聞こえているのだろうか?

 被害者家族は、事件の当事者でありながら、傍聴席から何も言えない。検察官の朗読は終わり、検察官は風呂敷につつんだ証拠品らしきものを裁判官に手渡していた。

 被告人側の女性弁護士は、まるで、蚊の鳴くような声で、何かを読み上げているが、傍聴席には聞こえない。そうこうするうちに「第一回公判は終了です。」と言われ閉廷。あっという間の出来事である。その後は、さっさと裁判官、検察官も席を立ち、その場を去った。

 これが第一ラウンドか? これが裁判か?

 いくら傍聴席に人を入れ形式的に公開を装っても裁判官と検事、弁護士のやり取りが、傍聴者に伝わらなければ、開かれた裁判とは言えない。映画やテレビドラマで見るような検事と弁護士の手に汗握る攻防を期待していたわけではないが、司法関係者の内緒話を見せられただけで内容はまるで聞こえない。私は、またしても蚊帳の外に置かれた気分にされた。

 人々はみるみるうちに去り、法廷はがらんとした感じになった。我々家族も茫然としたまま流れにのり、法廷を立ち去ろうとした時、国選弁護士が姉を呼びとめた。「何だろう?」「少し話がしたい」と言う。離れたところから、被告人の親がこちらを見ている。

 月日が流れていた。刑事裁判が始まるまで犯人家族から謝罪はなかった。話があると言われても、こちらには話したいことは何もない。事件発覚直後、すぐ謝罪にくるなら話もわかるが、謝罪したいと言われても、言葉通り素直には、受け入れられない。

 公判はあっけないものだったが、被害者家族として初めての裁判で、精神的には疲れていた。国選弁護士は敵の助っ人であるから、仕事とはいえ怒りの対象になる。刑事裁判の法廷では、検察官が私たち被害者家族の代理人的立場にあるが、法廷の外では、こちらには弁護士はいない。準備もなく接触するのは避けたい。しかし、地元に住む姉は、ストレートに拒絶することもできず、「用事があるから」と言い、連絡先を渡して、私たちは裁判所を後にした。

 すると早速、私と姉と義兄が車に乗って帰宅する途中、国選弁護士から姉の携帯に連絡が入った。「どうしても近日中に話がしたい」と言う。姉も困惑し、すぐに私が電話を代わった。

 とにかく、その日は私の体調も万全ではなかったので、面会はお断りした。明日、東京に帰るので、もし、私の体調がよければ翌日一度連絡し、短時間だが、空港で会って話をするという形にした。穏やかに話し巧みに、私たち家族と接触を図ってくる国選弁護士の態度は、何か必死で、食い下がってくるような感じが、私たちの警戒感をより強いものにした。

 その夜、翌日に、私は風邪でだるい身体に鞭を打ちながら、短時間で犯人サイドの国選弁護士と話す内容等について自問自答しながら寝た。内心、下手すれば、こちらが足元をすくわれるかもしれないと思いながら・・・・。 



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