司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 2004年6月14日、刑事裁判最終公判。当日は法廷内の雰囲気に、何かこれまでとは違う空気を感じとった。何かがこれまでと違う。不思議な違和感だった。そして「はっ」と思った。

 「人が違う」

 あれは、担当検事じゃない。あれはだれだ?どうりで、別の「気」を感じたわけだ。前の検事は白髪交じりで髪型は、わりとぼさぼさ頭のイメージだった、が、今日きている検事は、真白な白髪で、きちんとヘアースタイルも整え、清潔感のある感じである。

 なにかの理由で、不在ということか。 先日、矢吹検事と会った時、「最終日にはきて下さい」と交わした会話が脳裏にふとよぎった。どうしたものだろうかと、ふつふつと疑問が湧いてきた。正直、心中イライラしながら裁判に耳を傾け、複雑な心境でこの最終行方を見守っていた。

 裁判の流れは、特に声を荒げたりする場面はなく、スムーズに事が流れるように進んでいった。ここでの裁判の様子は、否定な感想になるが、既にフォーマット化された資料を基に、淡々と日々の仕事をこなすようにも見えた。

 これが刑事裁判最終なのかと唖然とした。繰り返し行われた犯行が、「2月28日の15万円窃盗」での起訴になると理解はしていたが、現状を見る限り、何かすっきりしないモヤモヤ感だけが湧き上がってってきた。

 新しい検事は物静かに、得に目立った質問もなく、一方、被告人の弁護人も裁判官からの質問に対して、「特にありません」という、こちらも物静かな回答のみだった。釈然としないまま時は流れた。

 被告人もまた、裁判管質問に対し、「はい、はい」と答えるだけ。付け加える言葉は、「申し訳ないと思っている・・・・反省している」。表情は緊張も走ってないようにも見受けられた。果たして、被告人の彼女は、「反省」という意味を本当に理解しているのであろうかと、言いたくなるほど、こちらには何も伝わらなかった。むしろ、どこかで練習しかのような、マニュカル化した回答だったようにも聞こえた。

 最終段階、裁判官が被告人に対する質問で、「ね、もうこのようなことは、二度としませんね?」と言ったシーンなどは、とてもじゃないが、被害者からの視点からすると「甘い」といいう印象しか残らなかった。しかし、最も不愉快さを覚えたのは、なんといっても被告人には、検察官も認めている余罪がありながらも、何ら鋭い突っ込みもなく、ゆるやかに事が進んでいく、この裁判の過程であった。

 この時、私の横に座っていた姉は、裁判中ずっと悔し涙を流していた。おそらく、「お金がない」と言う、父の口癖から始まり、そして、社会福祉法人に行き相談してもまともに扱ってくれなかった辛い日々を思い出しながら、聞いていたのだろう。そしてなにより、姉は被告人はもとより、社会福祉法人に対しても、「いつも介護ありがとうございます。父のことよろしくお願いします」と、よく言っていた。彼らに裏切られたという思いでいっぱいになり、改めて過去の悔しい気持ちが湧き上がってきたのだろうと思った。

 泣いている姉を横目で少し見ながら、私は、何かこの裁判自体に不信感を感じてきていた。ある程度は、裁判での大筋進行のシナリオはできているとはいえ、この流れを見て重要な事件のコアになりそうな部分が、明らかに欠落していたのを感じたからだった。

 裁判中、ニューヨークからこの件のために、一時帰国してきた兄と頭をかしげながら、裁判の行方をみていたのが、つい昨日の出来事のように思いだされる。



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