弁護士リストアップした中から、どの弁護士が私たちの案件に適任か、得た情報をもとに絞りだす作業を開始した。リストに集められた弁護士は、7名。その中には、その筋では、著名な方の名前も存在した。
7名の経歴は、さまざまだった。ただ、過去の経験を踏まえて、こちらが苦しい状況がだからといって、安易に依頼することは、リスクが高くなるため、より具体的な情報を基に厳選するつもりでいた。この中には、相当高い額を支払えば、きっちり仕事を果たすというタイプとされる人物もいた。しかしながら、いろいろ調べると、どうもこれは噂にすぎないことが分かってきたので、却下することにした。どんな案件でも引き受けるわけではなく、依頼者や闘う相手を、いろいろな自らのメリットで選ぶ弁護士がいることを知った。
そんなみんなで、結局は噂ではなく、この手の裁判で現実問題として、私たちの案件で闘えるという視点で、最終的には二名にまで絞ることができた。彼らに、慎重に接触を試みることにした。
まず、最初の一人は、当時の法律新聞社編集部部長の河野真樹氏(現・司法ウオッチ代表)から紹介されたT弁護士。同弁護士は、よくこうした案件を手掛け、新聞にも積極的に投稿している、正義感が強いタイプだった。司法の在り方について、うなずける主張を展開している人物で、しかも私たちの地元の弁護士でもあった。旅費がかからない、無駄な出費はでないという点は、S弁護士との教訓もあって、私たちにとっては魅力的で、そういう観点からみてもT弁護士はベストな位置にいるように思えた。
もう一人は、私のクライアントの顧問であるN弁護士。この方は、人権問題等に長年携わり、行政を含めだれとでも渡り会える人物。私は、この方がかなり心強い味方になりそうな印象を持っていた。そこで、N弁護士のことを、河野氏に伺ってみると、過去に面識はあるという。その手の筋では相当著名で、気性はやや荒く、突き進むタイプながら、弱者の味方で正義感も強く、その意味では最近は少なくなったタイプの弁護士、らしかった。それにしても、「よくこの弁護士を見つけ出してきたね」と、同氏に言われた。
私もここまでの情報はなかったため、同氏の話を聞いて、いわば独力でここまでこれたことに、我ながら正直驚いていた。しかし、一方でN弁護士については、いくつかの問題を感じていた。まず、東京で活動されているという点。つまり、また、S弁護士同様、頼めば旅費がかさみ、それなりに大変な作業が待っているということ。私たちは、それだけS弁護士のことがトラウマのような教訓になっていたのだ。もう一つは、著名な方であれば、限られた時間しかなく、依頼に関しては、厳選して選ぶだろうと。果たして、引き受けてくれるだろうか、そうした不安が頭をもたげていた。
こうした状態になって、改めて弁護士を頼むことが厄介で、なんとも心細い作業になるのか、ということを痛感していた。しかし、もう残された時間はない。とにかく、行動を起こすしかなかった。