司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 

  私たちについていたS弁護士が辞任した。当然、この情報は、相手側にもすぐさま届くだろうと思った。裁判の真最中の弁護士辞任は、相手サイドからすると、棚簿的なグッドニュースになるのだろうか。状況が一変し、相手方に有利な方向に傾くとして、連中が、こちらをあざ笑う顔が浮かんできた。

 

  S弁護士は、私が探してきた弁護人である。この状況下での弁護人辞任は、私に、その「責任」を痛感させた。

 

 それにしても、辞任の背景には、一体何か存在したのだろうか。突然の「辞任」については、様々なことを推測した。兄とやり取りの中での、裁判に弁護士が行くことが普通で、電話会議は珍しいこととして、「出張」に固執するS弁護士の態度には、私たちにとって、やはり受け入れがたいものがあった。実は、東京のS弁護士に依頼する際、遠距離の地方で行われることになる裁判への不安を相談した時、電話会議の存在を挙げて、「大丈夫」と太鼓判を押したのは、ほかならないS弁護士だったからだ。

 

 地方で行う裁判であることを十分理解し、何度も電話会議で進行していたてはずなのに、なぜ、今更、つじつまがあわないことを切り出してきたのだろうか。この違和感から、私は、もしかすると、S弁護士は、既に途中でこの裁判を見切りをつけていたのではなかろうか、という考えが浮かんできた。こちらが望まない「出張」による出廷に、あくまで固執する姿勢を示し、要は辞任したかったのではないか、と。

 

 S弁護士が兄を説得する際、一度、新しい裁判官の顔を見て、心証をつかむ云々の言葉には、重みもなく、正直、私たちには「日当」稼ぎに出向きたいといっているようにしか聞こえなかった。S弁護士が地元へ何度も足を運ぶことになれば、こちらはそれだけ経済的に疲弊する。ひょっとして、その先に、私たちにこの裁判を少しずつ断念させる心理効果を期待したのではないか――。そんなことまでが、頭を過った。 

 

 そして、これらの推測を踏まえると、最後に一つの答えにたどりついてしまった。つまりは、どこかの時点でS弁護士と相手方弁護士は、既に「結託」してのではないか――。私たちのような、裁判も弁護士の実態も知らない市民には、そうした水面下でのやりとりが、はっきりとした疑惑としてのしかかっていた。

 

 あるいは、兄がこの裁判に目を光らせることになったことで、弁護士同士で仕組まれたやり取りが難しくなり、「辞任」という最終カードを切ったのではないか、という想像もできた。

 

 しかし、私の中では、様々な憶測が飛び交っても、辞任の詮索は、何一つ私たちが置かれた状況の、打開策にはつながらない。これからどうすればいいのか、それが問題だった。私たちにとっては、やはり、やっとのことでたどりついた弁護士が消えたのである。次回の裁判期日までに、どうにかしないといけない。これまでにS弁護士に支払った額と、この裁判のために費やした時間を考えると、さらに焦る気持ちで気が動転しそうだった。 



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