S弁護士から、第1回の民事裁判第1回口頭弁論の期日が確定したとの連絡がきた。幕をきったんだ、もう後ずさりはできないんだという気持ちになった。私も同行することを視野に入れ、同弁護士に連絡をしたが、「得に一緒に来る必要はないですよ」ということだった。果たして社協幹部連中は、顔を見せるだろうか。そんな気持ちを押させつつ、待つことに決めた。
当日は、代わりに地元に住む姉夫妻が、出廷し民事裁判を出廷してくれた。第1回民事裁判後の夜、姉が私に様子を克明に話してくれた。S弁護士は、大きな口調で、覇気のある口調で、相手を圧倒していたように見えた、という。こちらの迫力ある弁論で、気が動転したのか、被告側の母親が、急に傍聴席で立ちあがり、こちらに対して険しい表情になって、何か大声で非難してきたそうだ。その甲高いが、裁判所の中で、肌寒く響いた、と。
その行動に対し、姉も無性に腹が立ったらしく、姉は傍聴席に座りながら、すぐ様静かに手を挙げところ、S弁護士は、くるりと振り返り、姉を見ながら、首を横に振ったという。相手のペースに乗るなという意味だろうか。姉も、S弁護士のしぐさに反応し、「はっ」と我に返り冷静になったという。S弁護士の冷静な対応には思えた。
私には、信じがたいがい光景だが、明らかに、被告側・母親の行動は場外乱闘のようなものだった。一方、相手方の弁護士は、うつむき加減で、反論もなく、静かにその場に座っていた、という。一体何を考えているのだろうか。
ところで、姉に出廷していた相手方・弁護士はどんな人間だったかを聞いた。弁護士は刑事裁判中に被告側についていた例の女性弁護士N氏とのことだった。社協側の人間は?と聞くと、だれも来てなかったという回答が返ってきた。「来ていない?なぜなんだ」。姉に聞いても答えが出ないのは分かっていながら、思わず私は、姉に食ってかかってしまった。
来てないということは、白旗を上げたと理解していいのだろうか。いや、そんなはずはない。兄が社協理事と直談判した際に、「法が認めれば金は払う」と強気な発言で追い返したぐらいだ。そんな経緯を思い出すと、社協・弁護人が来ない状況と何も反論しない被告側弁護人の様子が、不気味なものに思え出した。
裁判官は、進行の途中、S弁護士にいくつか質問したそうだが、S弁護士は強い口調で、「証拠はあります」と強い口調で切り替えしたという。第1回口頭弁論は意外と、あっさりと終わったとのことだったが、今回の様子を聞く限り、主導権はこちらが握っているような印象をもった。
裁判が終わった後、姉夫妻は、空港までS弁護士を送って行き、車内で、「S先生、凄かったですね」と言うと、彼は、「まぁ、1千万くらいはいけるでしょう」と自信満々に豪語していたという。市民の立場からすると、それはプロの言葉として、勝利戦宣言にも受け取れるものだった。その日、姉夫妻は、「都会で活躍する弁護士は凄いんだね」としきりに感動していたのを覚えている。
翌日、私は早速、S弁護士のもとを訪ね、直接状況を聞くことにした。姉から聞いた話を本人にすると、「いや、特に」と、やや謙遜していた様子だったが、表情は柔らかくなった感じだった。
そんな中、一つだけ気にかかった相手方・弁護士の出方について聞いてみた。なぜ社協の弁護士は来てなかったのか、来ないということは、我々の勝利なのかと尋ねると、S弁護士からは、「いや、それはないです。次回は来るでしょう」というシンプルな答え方が返ってきた。
やはり来るのか。弁護人2人が、手を組んだとき、互いに連携して、こちらの弱点を洗い出し、責めてくるのだろう。そう感じた。こちらは、それなら、それで立ち向かうだけの十分な気合ははいっていたのだが。
その時、ふと考えたのが、彼らはすでに心理的な戦術をたてていたのではなかろうかということだった。だんまりに徹している相手方弁護士と傍聴席からヤジを飛ばす被告側の母親姿。それは、こちらを挑発しているようにも思えたのだ。のちに、挑発だけではすまされない、社協陣営から、情け容赦ない、非情な嫌がらせを裁判外でじりじりと受けていくのだが。
今振り返ると、1回目の裁判は、ある意味、こちらに花をもたされたような安っぽいオープニングだったように思える。