司法ウオッチ<開かれた司法と市民のための言論サイト>

 社会福祉協議会と弁護士会の「タイアップ関係」という言葉を聞いた私は、ある法律系出版関係者の所に行き、このことについて、率直に疑問を投げかけてみた。彼は、驚いた表情を見せたが、私を見ながら親身に話を聞いてくれた。彼は、聞き終わると、「ちょっと、待ってくれる」と言うと、ある分厚い冊子を書棚から取り出してきた。

 それは、日弁連の会員名簿だった。全国の各都道府県にある弁護士会ごとに所属弁護士の氏名と事務所住所・電話番号が記載されている。その冊子をめくり、私の実家がある県弁護士会のページが開かれて置かれたのを見てびっくりした。県弁護士会のページの冒頭に書かれた、弁護士による各町村の法律相談窓口の大半が、各地の「社協」となっていたのである。

 また、他県弁護士会のページとも比較もしたが、ここまでの表示は見当たらず、客観的に見ても、我が県は社会福祉協議会と弁護士会とのタイアップ関係が濃いという強い印象を持った。やはり、あの弁護士先生が言っていた言葉は正しいことが分かり、改めて現実の重みをかみしめた。

 このシステム自体、一般的に見れば、大変便利なものだろうとは思えた。立場の弱い人を救済するための、支援であり、敷居の高い弁護士に身近に相談できる場を提供するとともに、弁護士自体への親近感を沸かせるものとも思えたからだ。

 しかし、私たちの置かれた立場からすれば、それは全く違うものに見えていた。「一体、誰に頼ればいいのか」。これが、偽らざる気持ちだった。

 私はある思いから、兄に連絡し、別の案を提案もしてみることにした。今までの経過を振り返れば、局長をはじめ現場レベル、犯人側と話し合いをもっても問題解決の糸口が全く見えなかったからである。

 「早期解決のため、社会福祉法人の理事と直談判するというのはどうだろうか」

 私の頭の片隅には、正直な所、民事裁判になれば、時間と多額なお金がかかることへの強い懸念があった。話して見ると、兄も、私と同じ考えを持っていた。兄は、ニューヨークに帰り、自分のビジネスを再開するために、早くこの問題にケリをつけたいと考えていた。そして何より、窃盗されたお金が満額戻らなくても、父親に平穏な生活をさせてあげたいというのが、私たち家族の一致した思いだった。

 そこで私たちは、その後何度も社会福祉協議会の責任者兼理事にアポイントを取るため度々連絡を入れた。しかし、話し合いは避けられた。

 「もう時間がない」。いつのまにか、それが兄の口癖になっていた。「もう時間がないので、話し合い場を作ってほしい。もう、帰国しなければならない」と、兄は訴えたが、それも届かなかった。相手方の態度からは、時間を延ばし、話し合いは避け、兄がニューヨークへ帰るタイムリミットを待つという狙いが見え見えだった。

 だが、兄は何度も役所に足を運び、粘り強く交渉に当たった。そしてようやく、彼らの首ねっこをつかまえることができた。相手方は根負けしたのか、兄がニューヨークに帰る数日前に、アポイントを入れた。彼らにとって、帰国数日前は都合のよいことだったかもしれない。

 この日、兄は一人で行くことは避け、第三者を交えて話し合いをすることにした。この事件について第三者に公平な立場で話を聞いてもらうことが狙いでもあった。その第三者に兄が指名したのは、地元の新聞記者であった。社会的に公平な立場でみることができる人間を連れていったのだ。



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