「立替?お金の立て替えただと」
追い詰められた町長の口から出た、窃盗の賠償金額を町が立て替えたという話に、町民の反応は厳しかった。
「どうゆうことだ。窃盗犯人に町はお金を貸すのか」
「ありえないだろう。一般的に、こういった行為は存在するのか」
「何年借りれるのか。返済はどうなるんだ」
町民たちは、一斉にざわめいた。明らかに納得いかないという反応である。なぜ、町がここまで窃盗犯を庇うの必要があったのか。そのことにも、首をひねる町民が大半だったようにとれた。社会通念に照らして、考えてみても、整合性がとれない話ではあった。町が完全にこの事件の責任を認めているか、あるいは、この案件を特別扱いする、公にはされていない特殊な関係があるのではないか、ということをうかがわせるものであったのだ。
「利子とかはどうなりますか。まさか無利子で?」
ある議員が、町民の気持ちを代弁するかのように、極めて現実的な疑問を町長にぶつけた。町長は、淡々と短くこたえた。
「25年のローンということで貸しました」
「無利子で、窃盗犯のために、うそだろう。金利無しで町が金かすのか。ありえんだろう。どうなっているんだ」
議員は呆れるように、そう返した。町民が騒ぐのは無理もない。いうまでもなく、農家をはじめ、自営業の町民たちは、銀行やJAバンクから、運転資金調達のため、お金を借金をした上、金利を払い、血税を払いながら、日々、生活をしている。理由が分からない、特殊な扱いに、町民の拳が震えてくるのは、納得のいく話であった。町民の一人がつぶやいた。
「俺たちも借りたいな、無利子なら。窃盗犯に町はタダで金貸して、何なんだ。JAから、機械買うのも高くかっているのに」
これはどう考えても、社協と窃盗犯の間での密約が交わされていたとしかいいようがなかった。憶測ではあるが、不自然な控訴からの密約だったのかもしれない。以前も書いたように、窃盗犯は、高裁まで行く気はサラサラなく、町が彼らに控訴させた事実があった。町長自身が責任をもって窃盗犯を守るという決め事が前提にあったのだろう。それが、この場をもって、裏づけられたと、私はその時、受け止めていた。
町民が納得できるはずもない。年老いた年金くらしの農家の人々にとって、この光景はどう映っただろうか。汗水たらしながら切り盛りしている、自営業を人々からすると、この町会議の審議は、まともにみえるはずがなかっただろう。
あえていえば、本来ならば、ここでの回答すべき点は、民法715条により、雇用上の責任をもって町が代わって、支払った、ということであっただろう。利子についても、現状の金利に照しあわせながら、町議会の場で、町民に報告する形で話せば、まだ多少は町民の納得も得られたかもしれない。それを、町長は、選択肢なかった。無謀な答弁であったと思えた。
これで、刑事、民事裁判から続いた闘いは一応終わった。町長を引き摺り下ろすことはできなかったが、完全に町民の信用を失墜した彼に、次はないだろうと思った。