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 〈欠落した消費者利益という視点〉
 

 消費者金融のATMボックス付近でそのATMの利用者に対し「債務者の取引履歴の代理取り寄せと利息制限法に基づいた残高再調査業務提供」の勧誘広告を行っていたこと、東京司法書士会も東京地裁の裁判官も、東京高等裁判所の裁判官も、被告から、この文言、表現を聞いた瞬間に、直感的に、司法書士の品位保持義務違反と反応したものと思われ、また、その直感が、原審の心証に大きな影響を与え、その判断の結果により、広告の受け手の消費者に実際にどう評価されているのか、受け手の消費者から苦情が出ているのかどうか、原告の広告により得る消費者の大きな利益を、東京司法書士会の品位と信用維持のために無視して良いのだろうかというような検討が全くなされていないことの理由なのではないでしょうか。

 また、原告の本件広告についての情報、証拠は、原告を法務局に告発した利害関係人、貸金業者(アイフル社、アコム社)の伝聞証拠だけで、客観的具体的証拠、ATMボックス近辺の賃貸借契約書とか、貸金業者顧客の声の録音とか、原告補助者の広告現場の写真とか、容易に得られるこのような客観的証拠も全くない上で、被告及び裁判官の一方的感情によって、原告の広告は司法書士の品位保持義務に違反すると判断され、その結果、消費者の情報受領権が阻害されることになったのではないでしょうか。

 そもそも、本件、上告で、上告人が、憲法違反を申し立てたのは、官庁の監督下にある強制入会制度を採用する団体において、その規定の冒頭に必ず置かれる品位保持義務条項が、個別の会員の行為の規制について、その品位保持条項の文言が、その規制を正当化できる法規範として効力を持ちうるかというもので、それに対する判断を、最高裁判所に求めたものでした。

 公正取引委員会は、この品位保持条項そのものが違法であるとは言っておらず、審決例や公正取引委員会の解説によると、広告規制の文言としては、品位保持条項は、その規制範囲が漠然としていて、過度に広い規制となるので違法になり得ると解説しています。

 また広告規制においても、同じ強制入会の団体でも、人権保護が業務目的となっている、法律により自治が幅広く認められた弁護士会における規制と、監督庁の監督下にあるその他の強制加入団体における規制と、そのありかたも同列には論じられないと私は思っています。22条の営業の自由についての規制の度合いも、その業務目的からして、弁護士の場合と他の法律事務業者との場合では自ずと異なってくるのではないでしょうか。

 さて、以下は「上告理由」3回目です。

(以下、上告理由書引用の続き)

 それに比して、注意勧告が対象とする上告人の広告行為時、2010年 平成22年当時には(被上告人の平成27年2月4日付調査内容通知書《甲12号証》の6ページの報告(d)2010年~2013年における上告人過払件数や、7ページのアイフル社作成の表参照)その注意勧告の根拠となる司法書士の広告を規制する規定は、東京司法書士会会則101条「会員は、虚偽もしくは誇大な広告又は品位を欠く広告をしてはならない」という規定と、それを根拠とする東京司法書士会総会決議で制定した広告に関する規範規則第3条6号「司法書士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」しか無かった。

 第2 東京司法書士会は、上告人が、消費者金融のATMボックス付近でそのATMの利用者に対し「債務者の取引履歴の代理取り寄せと利息制限法に基づいた残高再調査業務提供」の勧誘広告を行っていたことに対し、「消費者金融会社の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと」という注意勧告を平成27年12月3日付けで上告人に発した。

 上告人の広告に対する被上告人の上記広告禁止注意勧告の根拠は、会則101条「会員は、虚偽もしくは誇大な広告又は品位を欠く広告をしてはならない」という規定と、それを根拠に総会決議により制定した東京司法書士会会員の広告に関する規範規則第3条6号「司法書士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」に該当する広告にあたるというものであり、その規定のあてはめにより、上告人の消費者金融のATMボックス付近で、そのATMの利用者に対し「債務者の取引履歴の代理取り寄せと、利息制限法に基づいた残高再調査再計算業務提供」の勧誘広告を行っていたそのような広告は、広告に関する規範規則第3条6号によって禁止するというものであった。

 第3 しかし、被上告人も認める、上告人が実行していた「債務者の取引履歴の代理取り寄せと利息制限法に基づく残高再計算業務受任」の広告、勧誘を行っていたことについては、そもそも、そのような広告を東京会会員に禁止する規定は、司法書士法、命令、東京司法書士会会則、東京司法書士会広告に関する規範規則のどこにも明確に規定されていなかった

 それにも関わらず、東京司法書士会は、上告人の実行した「債務者の取引履歴の代理取り寄せと利息制限法に基づいた残高調査再計算業務提供」のための勧誘広告を、「過払金の返還請求事件や債務整理事件受任」のための広告とみなして、上告人に対し「消費者金融会社の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと」という注意勧告を発して、上告人の広告行為を禁止した。

 つまり、「消費者金融会社の敷地内やこれに近接する場所で利用者を待ち受けて声をかけチラシを配布するなどして、過払金返還請求事件や債務整理事件の勧誘をしないこと」という注意勧告に、「債務者の取引履歴の代理取り寄せと利息制限法に基づく残高再計算業務受任」の勧誘広告も、広告規範規則第3条(6)「司法書士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」違反に含まれるとして、債務整理や過払い金返還請求の広告とみなして、本件注意勧告で禁止したものである。

 このような解釈をもたらす規範規則第3条6号「司法書士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」という規定は、その文言が、「過度の広範性、漠然性、曖昧性のある文言」に該当し、人権を侵害する危険のある規定に該当する。今日の学説によれば、そのような法規、法令は「文言、文面無効」とされている。本件の、禁止される「司法書士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」という規定を見れば、それが、執行部の思い付きで、どんな内容の広告であっても、その規定を根拠に、会員の広告を、少数執行部の恣意的判断、決定で、容易に禁止することができるようになるから、その違法性は明らかである。

 この注意勧告に対する、上告人の無効確認の訴えに対して、原判決は、第一審判決を是認し、被上告人の、上告人の広告に対する広告規範規則第3条(6)「司法書士の品位又は信用を損なうおそれのある広告」違反の主張を認めて、上告人の東京司法書士会注意勧告無効の訴えを、一審、原審、そのいずれもが同じ理由でしりぞけた。




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