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 〈天賦人権思想と私的自治の原則〉

 天賦人権思想では、すべての人間は生まれながらにして平等であり、幸福を追求する権利を持っていると考えられています。それは法律や国によって与えられたものではなく、天から授かったものだというのです。

 法律は、国が社会秩序を保つために国民が守るべききまりを決めたものです。国と国民との間の関係では、法律によることが大事ですが、私人間の問題については、法律より人それぞれが生まれながらにして持っている天から授かった人権が優先されるべきです。

 そういう考えの下に私人間の原則法である民法は、契約自由の原則をとっています。契約は契約する人が自由に決められるのです。国や法律が干渉できるのは、社会秩序が壊されるという時だけです。

 相続問題は契約と同じような一面があり、私事ですから私的自治の原則が適用されます。つまり、自分のことは自分で決め、国は干渉できないということになります。相続問題は、契約自由の原則、私的自治の原則が適用されますから、関係する人の気持ちで決めるのが原則なのです。

 国や時の勢力の都合で作られた法律より前に、天から授かった人権や個人の気持ちが優先されなければならないのです。そもそも私人間の問題には、国や法律はできるだけ干渉しないのが近代国家の原則です。

 相続問題は、自分が作った資産を自分が亡くなったら自分が最も大事だと思う人に受け継がせるものですから、遺産を残す人の気持ちを第一に考えなければならないはずです。憲法は、「個人の財産権は侵してはならない」と定めています。遺産相続問題に、国は口を挟んではならないのです。私的自治の原則が適用されなければならない場面の代表です。

 遺産を残す人の気持ちの次には、遺産を受け継ぐ人の気持ちが大事に考えられるべきです。遺産を残す人の気持ちが分からないときは、遺産を残す人にとって、最も身近な人の気持ちが大事に考えられるべきです。

 ですから、遺言書があったら、遺言通りに遺産を残す人の気持ちに従って遺産は分配されるべきであり、遺言書がなければ、遺産を残された人の気持ちで作られた遺産分割協議書に従って分配されるべきです。

 国は相続関係には、口を挟まないのが近代法の原則です。法定相続分の規定は、遺言書や遺産分割協議書がないときに、初めて出番があるのです。遺留分という制度は、相続問題に国が干渉し過ぎているという視点でも問題があります。遺産を残した人の気持ちに反する規定であり、国が個人の財産権に干渉し過ぎです。廃止すべき制度だと思います。


 〈生き方の問題〉

 繰り返しますが、国や時の勢力の都合で決めた法律等の規定で、相続問題は解決すべきではありません。国や時の勢力が、相続という個人の問題に干渉すべきではないのです。

 相続に関いる法律は、被相続人の考えが分からないとか、相続人間で争いがあり、国が関与しなければ、らちがあかないという時に、それを解決するための裁判官に対するマニュアルの役目を果たせばいいのです。相続問題は、国の都合で作られる法律にできるだけ頼らない方がいいのです。

 相続問題は、その相続に関係する人たちの気持ちに従って解決すればいいのです。ですから、相続に関係する人の気持ちが大事となります。その人たちの生き方が大事となります。相続問題は、法律問題というより、生き方の問題という面が強いのです。

 法律は国の都合で作るものです。個人の生き方の問題には関係ありません。生き方は自分の気持ちで決めなければなりません。相続問題は、法律より相続に関係する皆の気持ちが大事なのです。

 そもそも国と国民という、「国」という組織を保持するために必要な場面においては、法律は大事な役目を果たしますが、国民と国民、つまり個人と個人の問題は、法律という国というか時の勢力が作ったルールは、原則として干渉すべきではないのです。

 法律の中には、国と国民という縦糸の関係と、個人と個人という横糸の関係に関するものがあり、その目指すところは、根本的に違うことを蛇足になりますが、申し上げます。個人と個人の問題である相続問題は、横糸の問題であり、横糸の問題は、できるだけ個人の考えに任せ、国の都合で作る法律は干渉すべきではないのです。

 (拙著「いなべんの哲学 第6巻 」から一部抜粋)


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