法律相談をはじめとして、弁護士業が振るわない、先の見通しが暗い。同業者と飲みに行くと、そんな話しばかりだ。不振の理由について、各人様々に分析しており、いろいろ意見が出てくるのだが、最近は、弁護士増員そのものの影響よりも、広告解禁のインパクトが大きかったのではないか、という意見を聞くことが多くなってきた。
確かに、増えたとはいえ、弁護士全体の人数は、10年前に比べて、まだ倍にまでは達していない。昔は、弁護士1人、事務員1人の事務所も多かったから、弁護士の人数イコール事務所の数に近いところがあったのだが、今は、かなりの事務所が共同化していて、1人事務所を探す方が難しいくらいだ。事務所の数自体はそれほど増えていないはずなのに、仕事は減っていく。テレビCMをはじめとした派手な宣伝を仕掛ける事務所が、底引き網よろしく、事件をかっさらっているのではないか、という疑問である。
私が登録した当時は、まだ弁護士の宣伝行為は禁止されていて、せいぜいが憲法記念日に名刺広告を出すくらいしか意識になかったように思う。2000年に広告が原則解禁された後も、電車の吊り広告を見たりすると、大変違和感があって、正直なところ、余りいい気分ではなかったことを思い出す。初めてテレビCMを目にしたときも、何とも言えず、ざらついた印象があって、ひどく不愉快になった。
弁護士広告への拒否反応が、同業者として、黒船を迎える気分から由来していたのか、それとも、そもそも「不幸産業」の1つである弁護士がそうした広告を打つことへの一市民としての生理的な反応だったのか、未だによく分からない。
何にしても、現に、弁護士だけでなく、司法書士も行政書士も、盛んに広告を競い合うという、往事は考えもしなかった現実を目の当たりにしているわけだが、これだけ派手な広告を続けることができるのだから、それ相応のメリットはあるのだろう。
副会長のとき、弁護士会としても、法律相談を引っ張ってくるために、テレビCMを打てないかと思って、いろいろ調べてみたのだが、何とか手が出せそうなのはせいぜい地元のTVKのスポットCMくらいで、在京キー局のCMはまさに天文学的な価格であった。結局、これも地元のFM局にCMを流してみたのだが、こちらは全くといっていいほど反響はなかった。やはり、それなりにお金をかけないと、宣伝は効果がないのだと思い知った。
一部の事務所が多額の宣伝費をかけて全国レベルで事件を網にかけ、安い給料で大量に採用された弁護士がそれを捌いていく。いや、むしろ、過払い対策のために大量に採用した弁護士の食い扶持を稼ぐためにこそ、広告費を投入して事件をとってくるしかないのかもしれない。
果たして、こうした構図が、一般市民の利益になっているのだろうか。先日は、小学校の同級生から、「テレビで宣伝してる事務所って何となく危なっかしそうだし、結局弁護士って敷居が高いんだよね」とあっさり言われてしまった。大多数の市民の感覚は、そんなところではないのだろうか。